側近は「壁」を単なる選挙スローガンだと考えていた
問題は、壁の建設をまったく政策的に詰めていないことだった。ストーン氏らは「壁」を単なる選挙スローガンと考えていた。
政府高官も同じで、昨年末大統領首席補佐官を辞任したジョン・ケリー氏は在職中、民主党議員団との懇談で「大統領は(本当のことを)十分に知らされていない」と漏らした。辞任前に行われたロサンゼルス・タイムズ紙のインタビューでも、「政府は早い段階で強固なコンクリートの壁の建設という考え方を放棄していた」と打ち明けている。
後任のミック・マルバニー首席補佐官代行も、下院議員だった2015年当時、トランプ氏の考えは単純すぎると批判していた。
「フェンス法」をオバマ氏らも支持
実は、アメリカ政府は既に12年前から壁の建設に乗り出している。ブッシュ(子)政権時代の2006年に「安全フェンス法」という法律が成立。当時上院議員だったオバマ前大統領、バイデン前副大統領やクリントン元国務長官らもこれに賛成した。同法に基づく工事などでこれまでに、総延長3145キロの国境のうち、1125キロにわたって高さ6・4メートルのフェンスや壁などが設置されている。
この間、トランプ氏の主張とは裏腹に、メキシコ側からの違法な越境者は減少を続けてきた。
メキシコからの違法移民の数は、ピークだった2007年の約690万人から2016年には約540万人と約150万人減少。違法移民全体(2007年約1220万人、2016年約1070万人)に占めるメキシコからの流入は約57%から約50%に減少した。国境警備強化の成果とみられている。
高い壁を建設するだけでは不十分
他方、他の諸国から観光ビザで航空機により入国して、ビザの期限切れ後も滞在し続ける違法移民は減っていないのが現実。現在はこうした違法移民が最も多いとみられる。
国境線は、カリフォルニア州の太平洋岸から、アリゾナ、ニューメキシコ両州をへて、テキサス州のメキシコ湾岸に至る。起伏があり、沙漠に河川と変化に富んでいる。テキサス州のメキシコ国境が全体の3分の2を成し、すべてリオグランデ川が国境を形成している。
こうした状況からみて、高い壁を建設するだけでは不十分で、国境監視用のドローンやセンサーを利用して、さらに警備員を増やす、といった対策が求められている。与野党はそんな政策をまとめる時期に来ているのだ。