独特な文化を持つ日本の体育会系運動クラブの常識は、一般社会の常識から大きく逸脱している。
2018年5月、それを象徴する事件が起きた。大学アメリカンフットボールの名門・日本大学と、西の雄・関西学院との定期戦でのこと。試合開始早々、日大のディフェンスの選手が、関学のクォーターバック(QB=司令塔の役割を果たすポジション)に対し、レイトタックルの反則行為を働いた。関学サイドから提出された動画があまりにも衝撃的だったため、この事件は瞬く間に拡散し、社会問題にまで発展した。
アメフト問題にあった「体育会系の闇」
スポーツとは何か。ごく簡単に定義すれば、ルールに従い勝敗を競う遊戯だ。誤解を恐れずに言えば、あくまで「遊び」である。ルールがなくなれば、アメフトのように激しいボディコンタクトのある競技は果し合いになりかねない。
世間が首を傾げたのは、いったい何が日大選手をこれほどまでに非道なプレーに走らせたのかということだ。ここに体育会系の闇がある。
日大選手は会見で、コーチから「監督が『QBを1プレー目で潰せば(試合に)出してやる』と言っている」と聞いたことを明かした。それに対し、前監督の内田正人は「私からの指示ではない」と否定し、前コーチの井上奨も「怪我させてこいという意味ではなかった」と証言した。だが、のちに第三者委員会は内田と井上の指示によるものと認定している。
体育会の世界にある「干す」と「はまる」
体育会系の世界では「干す」という言葉が頻繁に使われる。試合に出さない状態のことだ。指導者は干すことで、選手を発奮させようとする。
日大アメフト部では、そのショック療法が常態化していた。チーム内では、その対象に選ばれることを「はまる」と呼んでいた。はまった選手は、試合に出してもらえないだけでなく、言葉でも存在を否定され続け、精神的に追い込まれていく。すべての道を閉ざされ、思考能力を失ったところで、今回のようにたった一つ、救済の道を示される。すると、生き残るために、善悪の判断もつかないまま、その道を突っ走ってしまうのだ。カルト教団の洗脳方法に近いやり方である。日大選手は、そのときの心境を「追い詰められていたので(反則行為を)やらないという選択肢はなかった」と振り返っている。