頻出するフレーズ「胸襟を開いて」
安倍晋三 首相
「モスクワでは、じっくりと時間を取ってプーチン大統領と胸襟を開いて話し合い、平和条約交渉をできるだけ進展させたい」
YOMIURI ONLINE 1月21日
安倍晋三 首相
「平和条約の問題をじっくりと時間をかけて胸襟を開いて話し合った」
朝日新聞デジタル 1月23日
菅義偉 官房長官
「胸襟を開いて率直な意見交換を行った」
産経ニュース 1月23日
ロシア側の強硬姿勢が鮮明になった上で臨んだ日ロ首脳会談。上記の首相発言のうち前者はロシアへ出発する前に首相官邸で記者団に語ったもの、後者は首脳会談後の共同記者発表での発言。いずれも具体的なことは何も言っていない。プーチン氏との親密さのアピールに終始しているように見える。菅義偉官房長官も23日の記者会見で、安倍首相にあわせる形で「胸襟を開いて率直な意見交換を行った」と述べたが、北方領土問題の交渉については「どのような論点が取り上げられたかは答えは差し控える」と詳しい言及を避けた。
プーチンがこだわる経済協力拡大
ウラジーミル・プーチン ロシア大統領
「今後数年間にロシアと日本の間の貿易高を1・5倍、300億ドル、少なくとも300億ドルを目指そうという認識で合意しました」
産経ニュース 1月23日
一方、プーチン氏は共同記者発表で具体的に日露両国の経済関係をさらに発展させることについて詳しく言及。歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言を基礎に薦める平和条約交渉については、経済面を含めた日露関係の進展が重要だという認識を示した。話の順序も経済協力拡大の話題のほうが先で、平和条約締結の見通しについては後。飛躍的な経済協力拡大が平和条約締結の前提条件のようだ。
プーチン氏によると、昨年1月~11月期では日ロ貿易取引高は18%も増えており、ほぼ200億ドルに達したという。今後数年間の間に、その1.5倍である300億ドル(約3兆3000億円)を目指そうというのだ。2017年の日ロ貿易は、輸出が6737億円(前年比21.5%増)、輸入が1兆5507億円(前年比26.3%増)だった(財務省貿易統計より)。なお、昨年の日本の貿易収支は3年ぶりの赤字で、赤字幅は1兆2000億円だったことが明らかになっている(朝日新聞デジタル 1月23日)。外務省は日ロ両国間の貿易拡大が首脳間の「合意」であることを否定した(時事ドットコムニュース 1月24日)。
また、プーチン氏は日本のロシアへの投資が累積で22億ドル(約2400億円)に達したとも語っている。安倍首相は2016年12月に「8項目の経済協力」を提案し、3000億円の経済協力を約束している(日本経済新聞 2016年12月16日)。このときは「ロシアが強く求める経済協力をテコに北方領土交渉を前進させる狙い」と報じられていたが、現時点で北方領土交渉はまったく前進しているように見えない。
共同通信は「ロシア大統領、2島返還を示唆」と見出しを打った記事を配信したが、記事には「日本からの経済協力拡大など両国関係の飛躍的発展を条件に、北方領土問題を2島返還で決着させる用意を示唆した」と記されていた(1月23日)。ロシアの有力紙「コメルサント」は22日の電子版で「首脳会談は成果がなかった」とし、安倍首相に「緊急ブレーキがかかった」と報じた(朝日新聞デジタル 1月23日)。