文春オンライン

少年野球の練習風景で思い出した「頑張れば、できる」という亡霊のような何か

なんだろう、この胸の痛みは

2019/02/02
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トラブルシュートをするおっさん保護者役です

 戸惑う保護者から寄せられる、私への視線。ああ。どうやら出番が来てしまったのか。もうね、役回りとしてはトラブルシュートをするおっさん保護者役です。公園でも地元のアクティビティでも学校でもデイケア施設でもマンション管理組合でも、何か面倒なことがあるとだいたいお鉢が私に回ってくるんです。面倒くさいことは面倒くさい人に任せると丸く収まるという日本古来の知恵か何かでしょうか。

 練習の休み時間に老人コーチの皆さんに「ちょっといいですか」って声をかけます。集まる警戒の目線。何だこのジジイども下から出たのに露骨に心理的距離取りやがって。イラッと来る感情をグッと抑えて挨拶を交わし、少年チームの所属と名前だけ名乗ったあと、おもむろに「練習厳しすぎませんか。無理に詰め込むと嫌になっちゃう子が出ますよ」と切り出すと、言い終わる前に食い気味に「保護者が甘やかしているのがいけない」と口々に返答があるわけです。こちらも大人ですし、いくら年上の爺さんコーチもそこまでは言いませんが、ニュアンス的には俺たちの言うことを聞いていればよいのだ、という雰囲気を感じます。

 甘やかす。うーん、どうなんですかね。

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ある教え方がハマる子もいれば……

 子供たちはみんな野球に興味があって、上手くなりたいから練習に来ているわけだし、保護者も見守っているわけですね。だからこそ、プレイした経験の多い、きちんとしたコーチが指導することできっと昨日より今日、今日より明日、野球が上手くなってくれると期待して休日の時間をつぶして練習に来ているわけだ。

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 また、チーム競技とはいえ子供たち一人ひとりに性格があり、ある教え方がハマる子もいれば、まったく合わずにやめてしまう子だって出るかもしれない。指示を出し厳しく教えれば伸びるタイプの子にとっては、熱血老人指導でプロ真っ青の超絶やきうエリートになってドラフト会議で12球団指名されたのを蹴っ飛ばしてヤンキースと巨額契約することもあり得る。

 ただ、満足にユニフォームもみな着ているわけでもない、単に興味を持ったから野球でもしてみようか、親が野球好きでテレビで観ているから俺もやってみよう、兄貴が野球やって楽しそうだから何となく、で集まってきた子供たちにとって、オイコラと指示出されて私語せず笑わず真剣に野球の練習をするのが果たして楽しいのかどうか。そこを乗り越えれば上手くなったのを実感できて練習が楽しくなるはずだ、というのは分かるけれど、まだ満足にスパイクの履き方も知らず、かかと使ってベースランニングしてしまうような子供相手に「膨らんで走るな」と怒鳴り散らしてやる気を引き出せるものなのかどうか。