「大変な作業でしたが、恐らくこれは初めての試み」
いまとなっては幻となった国衆たちの姿を、平山さんは史料を丹念に集めて可視化した。
「室町幕府や戦国大名が出した文書や、寺社などに残る文書、記録のなかで、国衆の動きが記述されている箇所をひとつひとつ拾いだして、彼らの動きを項目ごとに整理していきました。大変な作業でしたが、恐らくこれは初めての試みだと思います。
国衆は、戦国期固有の存在です。鎌倉時代の地頭や、室町時代の国人(こくじん)は、幕府の体制と荘園制のシステムのなかで土地の権利を保持していました。戦国期になると幕府も荘園制も衰退していき、土地を自分で守らなければならなくなっていく。その過程で衰えて滅ぶ国人もいましたが、遠隔地の権利を放棄し、本領を中核に、周辺の支配を強化して、領主=国衆として生き残る者が現れてきます。
とはいえ一国衆だけでは生き残れない。そこで国衆は戦国大名の軍事活動に協力する代わりに保護してもらうという双務的な関係を築いていきました。
本書では、個別の国衆を見るのではなく、面的な広がりのなかで捉えて、武田氏が支配していた信濃と甲斐地域における国衆の成立、展開、そして消滅までを通覧しています」
平山さんは、東京の新宿区に生まれ、荻窪で育ち大学院博士課程を出たのち山梨県で就職。現在は研究のかたわら、地元の高校教師を務めている。
「東京を離れたのは、独り立ちしたいという思いからでしたが、山梨県を選んだのには、両親の故郷が山梨だったということもあったでしょうね。うちの菩提寺は武田勝頼を弔った甲州市の景徳院でした。だから子供のころから武田勝頼の伝説についてよく聞きましたし、それが歴史に興味を持ち、後年に『川中島の戦い』や『武田氏滅亡』などの著作を書くきっかけにもなりました。
次作は信玄の父、武田信虎について書く予定です。信玄の名前に隠れていますが、戦国大名武田氏の基礎を築いたのは信虎です。そしてことし2019年は武田信虎が甲府の町をつくって500年の年なんですよ」
ひらやまゆう/1964年、東京都生まれ。歴史学者。立教大学大学院博士前期課程(日本史)修了。山梨県史編纂室、山梨県立博物館、山梨大学非常勤講師などを経て、現在山梨県立中央高等学校教諭。他著に『武田氏滅亡』『天正壬午の乱』など。