巻末プロフィールには、専門は農業史とある。されど前作『トラクターの世界史』で異色の技術史を描いてみせた藤原さんのこれまでの著作は、農業史のひとことでは片付けられない広がりを持っている。
「よく『ご専門は?』と尋ねられるのですが、自分でもなにが専門なのか見当がついていなくて、面倒なので、農業史ですとお答えするようにしています(笑)。ただ真面目な話をしますと、農業史の射程は、かなり広いものなんです。食にかかわる生命全般が対象になり得るわけですから」
本書で「給食」をテーマに選んだのはなぜなのか。
「家族制度って疲弊しているな、と感じたことが理由のひとつです。食でいえば、かつては家族が1つの食卓を囲むことが当然視されてきました。でも現代では、それこそ『孤食』なんて言葉があるように、一家団欒で食べること以外の可能性が模索されているように思います。そういえば、99パーセントの日本人には、給食の経験があるじゃないか、これは研究するに値するな、と直感がありました」
給食に関する研究は主に家政学や栄養学で蓄積されてきた。先行研究を整理するうちに頭を抱えることもあったが、ある資料の発見が本書を完成へと誘う。