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連載文春図書館 著者は語る

99パーセントの日本人が食べている給食は「貧困」を救うためにあった

著者は語る 『給食の歴史』(藤原辰史 著)

給食は貧しい学童を救う任務から降りたことはない

「国会図書館でGHQ関連の資料を漁っていたとき、治安維持の手段として給食について言及している文書を見つけました。GHQは軍事や政治と同じレベルで、占領政策の重要な一環として食に目をつけていたんです。さながら、軍と胃袋の2つをガッチリ掴まれたのが、戦後の日本だったわけです。アメリカは恐ろしいと思いながら(笑)、これはいけそうだ、と思いました」

 本書では給食という現象を、(1)貧困(2)災害(3)運動(4)教育(5)世界という5つの視点から描き出す。

「給食はあくまで政策です。言い換えれば、それは強制ということ。この性質は、貧困から給食を見たときに如実に現れます。歴史的にわかっている給食の最初の主な目的は、貧困ゆえ就学できなかった子供たちに、学校へ通えば食事にありつけるぞ、と足を運ばせることでした。国民皆学を目指したお上の巧みな政策です。その上で、給食史において特徴的なのは、世界各国どの時代でも、貧困家庭の子供に対し、その子が貧しいというスティグマを与えないように常に配慮がされていたことです」

 藤原さんは本書で繰り返し言う。〈給食は、一度だって貧しい学童を救う任務から降りたことはない〉。

藤原辰史さん

「政策といいつつ、給食が中央政府の一元的な管理下にあるわけではないところも面白いんです。実際の運営は地方自治体に任されているので、良きにつけ悪しきにつけ給食のバリエーションは様々です。自治体のどこかで一括調理して各学校に配るセンター方式の是非、食器の材質を巡る議論……いずれも小さな地方の単位で、我が子を学校に通わせる親、教員、調理者、栄養士たちの運動を経て地道に改善されてきた歴史があります。給食はときに社会主義的であるとか、経済合理性に欠けると、批判にさらされてきました。それでもなお、いまの日本に給食が存在するのは、やはり貧困がなくなっていないからでしょう。有志の人々の手で貧しい子供へ食事を給する『こども食堂』のような尊い活動もありますが、本当に貧しく、その取り組みすら知らない家庭もある。給食がもつ強制の性質は、こういう家庭の子供にも等しく食事を届けることができるという点で、現代でもなお希望のある制度だと思っています」

ふじはらたつし/1976年、北海道生まれ、島根県出身。京都大学人間・環境学研究科中途退学。京都大学人文科学研究所准教授。農業史専攻。2013年、『ナチスのキッチン』で河合隼雄学芸賞。『稲の大東亜共栄圏』『戦争と農業』など著書多数。

給食の歴史 (岩波新書)

藤原 辰史

岩波書店

2018年11月20日 発売

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