「じつは、ある出版社から『武田軍団』という本を依頼されていました。武田氏に限らず戦国大名の軍団は、譜代の家臣たちによる直轄軍と、国衆(くにしゅう)たちの軍で編成されているのですが、調べているうちに、国衆についての研究がどんどん膨らんでしまって(笑)。それで思い切って後者だけで一書にまとめたんです」
と、『戦国大名と国衆』を先日刊行した平山優さんは語る。国衆とは、武田氏や今川氏といった戦国大名に自分の領地の保証を受け、かわりに戦国大名の軍役などを担う有力領主たちのこと。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016)の真田氏や『おんな城主 直虎』(2017)の井伊氏など、近年国衆の存在が注目を浴びるようになった。しかし『真田丸』の時代考証にも関わった平山さんによれば、国衆はマイナーな研究テーマだったという。
「国衆の研究の難しさは、史料がないこと。たとえば東京の世田谷には、かつて吉良氏という国衆がいましたが、ほとんど史料がありません。国衆たちの支配領域の実態、下手をすると系図もわかりません。
いま読める文書は、端的にいえば、それを所有していると土地の権利主張が有利になるなど実利があったからこそ残った。戦いで滅んだり近世に大名の国替えに家臣として従ったりしてその地にいなくなった国衆の文書というのは、残りづらいんです」