大型連覇が途切れる要素はどこにあるのだろうか
では、大型連覇が途切れる要素はどこにあるのだろうか。単純に考えれば10年以上も棋力を維持するのが難しいということになりそうだが、中原の名人通算獲得期数は大山に次ぐ15期だし、渡辺の竜王も11期を数える。同一タイトルを通算で二桁獲得した棋士は大山、中原、羽生、渡辺の4名しかいないし、女流棋士でも林葉さん、清水、里見の3名のみである。
こう考えると、超一流棋士にとってはトップクラスの棋力を10年、あるいは20年にわたって維持し続けることは不可能ではないということになる。連覇が途切れた要因を単純な棋力の低下に求めるのは焦点が異なりそうだ。
一つの要素として、筆者は後輩の台頭を求めたい。上記では大山も羽生も後輩を打ち負かしてきたと触れたが、大山の名人13連覇を止めたのは、年齢で言うと干支が2回り下の中原だし(大山は1923年生まれ、中原は1947年生まれ)、また羽生の王座19連覇を止めたのは14歳下の渡辺であり、棋聖戦の10連覇を止めたのは20歳下の豊島将之二冠だ(羽生は1970年生まれ、豊島は1990年生まれ)。
さすがにこの年齢差は大きいだろう。盤上における技術が常に発展し続けていると考えると、その部分では後発組のほうが有利になるのは自明の理だ。
また連覇とともに年齢を重ねると、体力の低下という避けることができない問題も生じてくる。頭脳勝負である将棋もそこからは逃れられない。中原は「若い時は5回考えられた局面が、年を取ると頭が疲れて3回しか考えられなくなる。その結果として検算漏れからのミスが生じる」という趣旨のことを語っている。盤上における最善手を求めるという点について、年齢を重ねることは経験を積むプラスと、体力低下のマイナスという相反する要素がある。
さらに15連覇してもおかしくない
里見は現在26歳。年齢から考えると、里見の10連覇は羽生の棋王12連覇に近く、体力の低下を言われるにはまだまだ早い状況だ。女流名人の連覇はいつまで続くか。羽生の王座連覇が途切れた時の年齢が41だったことを考えると、さらに15連覇してもおかしくないということになるが、さすがに25連覇達成は期待の掛け過ぎか。
そもそも同世代の女流棋士が黙っていないだろう。今年度、里見から女流王位のタイトルを奪った渡部愛女流王位、また里見にタイトル挑戦して涙をのんだ伊藤、谷口由紀女流二段と、いずれも20代半ばの指し盛りである女流棋士が連覇の阻止に立ちはだかる可能性は大いにあり得る。また、現時点で10代の女流棋士は5名いる。その飛躍にも期待したいところだ。
その点は、里見自身が一番よくわかっているだろう。局後のコメントでも、次のように語っていた。
「来期に臨むにあたり、力をつけることが一番大事です。地道に勉強を重ねて頑張りたいです」
現在、女流のタイトル戦は今年の1月にヒューリック杯清麗戦が新設されたので7棋戦を数える。そのうちの四冠を保持する里見の実力が飛びぬけているのは確かだが、絶対女王が連覇記録を更新し続けるか、新たなヒロインが誕生するか、これからも注目してみていきたい。
写真=相崎修司