女流棋界の第一人者である里見香奈女流四冠が、また新たな金字塔を打ち立てた。2月18日に東京の将棋会館で行われた第45期女流名人戦五番勝負第4局で、挑戦者の伊藤沙恵女流二段を破り、3勝1敗で女流名人を防衛。これで里見は女流名人戦で10連覇を達成した。
「10年を振り返るとあっという間でした」
里見は10連覇達成について以下のように語った。
「10連覇はあまり意識していませんでしたが、今期の開幕直前あたりから、周りの方に注目していただきました。応援されることで、結果を出さねばという思いもありましたが、それよりも自らの将棋を指すことを心がけました。そのことで結果がついてきてよかったです。
10年を振り返るとあっという間でした。その中では(五番勝負の)最終局に臨むという機会もありましたが、そのような経験をできて、成長につながったと思います。今期は純粋に将棋を楽しめた五番勝負でした。開幕直前に足を怪我して、対局中に足をくずすなどご迷惑をおかけしましたが、気を使っていただき感謝しています。これまでで、最も周りの方々に助けられたシリーズでした」
里見が初めて女流名人を獲得したのは2010年2月10日。清水市代女流名人を3勝0敗のストレートで下してのものだった。その1年ちょっと前に、初タイトルである倉敷藤花をやはり清水から奪っていた里見は、自身初の二冠を達成。17歳11ヵ月での女流二冠達成は林葉直子さん(元女流棋士)の15歳0ヵ月(1983年に女流名人・女流王将)に次ぐ年少記録である。
「何を着てもスイッチが入るような棋士になりたい」
その就位式で、里見は「女流名人として立ち居振る舞いに気をつけて頑張っていきたい」と語っていた。また当時は高校卒業を間近に控えていたので、それまで対局には学校の制服で臨むことが多かったが、卒業後にどのような服装で臨むかということにも注目が集まっていた。「今後の服装については特に決めていない。自然にスイッチが入る服にしたいと思っているが、何を着てもスイッチが入るような棋士になりたい」と語った。
初の女流名人就位式での言葉は、いずれもその後に実行されたと言えるだろう。里見の立ち居振る舞いは男性棋士のトップクラスと比較しても遜色ないし、またどのような服装であろうが、将棋盤を前にすると、常に勝負師としてのスイッチが入っているのは、これまでの実績を見ても明らかだ。
2011年、里見は奨励会編入試験を受け合格、女流棋士と奨励会員という二足の草鞋を履く。奨励会では三段リーグまで到達したが、最後の厚い壁を抜けなかった。現在も、女流棋戦で実績を積み重ねることで男性棋戦への参加資格を得ることができ、男性プロ相手に10勝5敗の成績を残せば「プロ編入試験」を受け、四段への道は残されているが、里見がその可能性を口にすることはない。仮にするとしたら、10勝5敗の成績を現実に挙げた時だろう(今年度の里見は男性棋士相手に7勝8敗)。