2018年刊行の『極夜行』で新設のYahoo! ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞と伝統ある大佛次郎賞のW受賞で注目を集めた作家、そして探検家・角幡唯介。

 1年ぶりの新作『極夜行前』は死の一歩手前を意識したという「極夜行」を成し遂げるために費やした3年間をまとめたものだ。これもまたまぎれもない冒険であり、これだけの準備と失敗があって、あの『極夜行』が出来上がったのだと知らされる。次なる旅に出かける直前の著者が、新作について語った。

©角幡唯介

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2014年の1月、初めてグリーンランドへ

――『極夜行前』はどんな作品か、角幡さんの口から改めてうかがいたい。

角幡 極夜の旅をしたいなと思って初めてグリーンランドに行ったのが2014年の1月。ゼロから始めて、ひとつひとつ試行錯誤しながら、現地のことが分かっていき、最終的に16年11月からの『極夜行』の旅につながっていく、そのプロセスを描いています。

 その過程でアウンナットやイヌアフィシュアクという場所にある無人小屋に苦労して探検のための食料や燃料(デポ)を運んだのですが、そういった土地は、自分にとってただの土地ではなくとても深い関わりのある大事な土地になり、それだけでなくライフルなどの道具を揃えて獲物をとれるようになったり、犬も成長して自分の相棒になっていく、そういう過程で、自分自身の本質的な何かが土地、ライフル、犬に憑依していくかんじがしたんです。手作りの橇も、他の人にはどうでもいいものかもしれないけど、自分にとって切実なものになる。自分で作った橇が壊れたら命にはねかえってくるという意味で、制作することそれ自体が命と直結しているわけですから。そういう感覚は初めてだったから新鮮でした。試行錯誤していくことによって自分の世界が広がっていく、成長していく過程を書きたかったんです。グリーンランドに何回も通っているうちにその土地に詳しくなったから『極夜行』が書けたわけです。

――これだけの準備が必要だったんですね。

準備した物資は白熊に食べられてしまうが

角幡 それはそうです。でも準備って、デポを運ぶ、天測の訓練をするなど物質的なことをイメージしますよね。僕も実際に、準備活動の目的のひとつはデポを運ぶことでした。極夜探検のための物資を事前に運ぶことが目的だったわけです。土地に詳しくなろうとか世界を広げようとかこの土地自体を自分の中に組み込もうというのはなかった。でも結果的には物資を運ぶことは失敗した。その後、白熊に食べられてしまいましたからね。表向きの物資を運ぶという過程はとても重要なことでしたが、同時に知らないうちに土地のことをよく知るようになっていた。実はそっちのほうが重要で。どこにどういう動物がいるとか、この時期の海氷はこういう危険があるとかその土地について知識が深くなっていくわけです。その知識と経験がなければ極夜の探検はできなかった。それは行く前には分かりませんでした。やっていくうちに気づいていったんです。

©角幡唯介