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「この旅がなければ北極で死んでいたかも」 探検家・角幡唯介の『極夜行前』

「この旅がなければ北極で死んでいたかも」 探検家・角幡唯介の『極夜行前』

『極夜行』に至るまでの物語

note

犬世界で浮いてないか心配なウヤミリック

――相棒の犬、ウヤミリックとは4年の付き合いになりますが。

角幡 犬を買って育てたのは初めてです。育てるというか、しつける、ですけど。

 犬に対しては、申し訳ないなという気持ちもありますね。僕がいるときは一緒に出掛けますけど、それ以外のときは村人に餌を与えてもらって、たまに犬ぞりに使ってもらうというかんじで、あまり集団生活になじんでいないようです。僕が行くとすごく喜ぶので、たぶんこの人が飼い主だというのは分かっている。一匹狼というか、ちょっと浮いてしまっているんじゃないかなという気がして、悪いなと思ったので、日本に連れてこられないか真剣に考えたんですけど、難しかったです。

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©角幡唯介

――旅の間はどういう存在でしたか。

角幡 いろいろ勉強になりました。犬と一緒にいて分かったこともあるから。「極夜行」のときも犬がいるというだけで安心感を与えてくれるし、最後は食べて自分が生き延びてやろうというくらい、ある意味僕が犬に依存することで旅ができた。北極を旅するというのは生きていくことを凝縮したような濃密な時間。犬のおかげで生きることができているみたいなかんじですよね。

――「極夜行」の旅直前のトークショーで読者から、何かあったら犬を食べることはありますか?と聞かれたときは、「えっまさか」という表情で驚いていましたよね。

角幡 あのときはまったく考えていませんでしたよね。今は結構考えます。今年から北極で犬ぞりを始めます。今までのように一対一の関係ではないので、距離感が変わると思います。ワンオブゼムになるから。一対一の関係の時はこっちのストレスは全部ウヤミリックに向かっちゃうので、犬もたいへんだったと思う。

――よく最後までついてきてくれましたよね。極夜の探検は、これで角幡さんの中でも本当に完結ですね。

角幡 そうですね。

――どちらから読むことをお勧めしますか。

角幡 順番としては『極夜行前』から読むほうが正しいかもしれませんが、どちらからでも読めるように書いています。

極夜行前

角幡 唯介

文藝春秋

2019年2月15日 発売

極夜行

角幡 唯介

文藝春秋

2018年2月9日 発売

「この旅がなければ北極で死んでいたかも」 探検家・角幡唯介の『極夜行前』

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