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“​無為な炎上”が乱発するフェーズに入った

おぐら 競技の世界においても、記録を出したところで終わりではなく、そのあとコメントでどんなことを言うか、どんな人間性なのかまでが評価の対象になってますよね。そのコメント次第で人気が出たり、あるいは意外な趣味があったことで注目が集まったり。

速水 羽生結弦はまさにそうだった。記録も出して、コメントも優等生で、プーさんが好きっていうところまで込みの人気。でも、たとえばサッカー日本代表の森保監督は、あくまで勝つのが仕事だと割り切っていて、精神論とファンへの感謝しか言わない。スポーツの世界では、発言による炎上とか余計なことで精神的な負担をかけないように、なるべく選手にもしゃべらせないようにしていたりする。

おぐら バラエティ番組でのトークが苦手だったり、とにかくライブのネタで評価してほしい芸人は、そういう意味でアスリートと似てますね。何年か前まで、SNSが世間に浸透してきた頃は、これからはセルフブランディングだとか言ってましたけど、これだけ無為な炎上が乱発するフェーズに入ったことで、もうそういうのいいや、本業に徹しようって人も増えそうです。

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速水 それでいうと、松本人志にとっての『ワイドナショー』って、ボケの究極のシチュエーションを自分で作った時事ネタなんだよね。

おぐら そうですね。別にコメンテーターをやりたいわけではなく、あくまで本業のお笑いショーとしてやってる感じ。漫才からはじまり、コントで一世を風靡して、『一人ごっつ』や大喜利、『すべらない話』を経て、今度はニュースをネタに笑いをとろうっていうスタンスなのかなと。

松本人志氏 ©文藝春秋

速水 本人にしてみれば、社会現象で大喜利してる感覚だよね。それで最初はうまくいっていたのが、さすがに時代遅れ感のほうが目立ってきちゃったっていう。

おぐら だから本人としては、自分はコメンテーターではないし、社会的にアップデートしようとか、リテラシーを身につけようっていう意識がないんだと思います。ひとつ時代に合わせているとしたら、芸人がニュース番組に出るようになったご時世に、自分もニュースで笑いをとろうっていうぐらいのことで。

速水 それでスベっちゃうから、もう松本人志は終わったとか言われるんだよね。

ZOZO前澤社長は​「本業に集中します。チャレンジは続きます」

おぐら 一方でライター界隈では、SNSやネットでの発言による存在感や影響力が仕事に直結してます。たとえ原稿が下手でも、ツイッターの更新がやたら多くてフォロワーもたくさんいると仕事が来る。それによってダメな文章が世の中に出回り、それを読んだ人が「これなら自分にも書ける」とライターを目指し……という循環。

速水 原稿を書いてるならまだましで、影響力だけを換金する仕組みがオンラインサロンだからね。あとは、本業がうまくいってない人ほどネットで存在感を発揮しがち。ZOZOの前澤(友作)社長はまさにそうでしょ。

おぐら 前澤社長のツイッターをフォローしてリツイートしたら、100人に100万円ずつ、総額1億円をプレゼントするっていう。

前澤友作氏 ©文藝春秋

速水 あれはZOZOのオリジナルブランドが大コケして、本業である会社の株価も落ちてきたから知名度を上げるカンフル剤としてやったはず。宇宙つながりで言えば、テスラがうまくいかなくなってタイの洞窟救出劇のダイバーに暴言を吐いたイーロン・マスクと一緒。

おぐら それにしても1億円って、かなりのインパクトはありましたよ。

速水 でも肝心の使い方が、キャバクラとかホストクラブで毎日100万円使ってますみたいな金持ちエピソードのレベルで、あまりにセンスがない。

おぐら でもほら、ただ配るのではなく、夢を持っている人にあげるっていう……。

速水 そんなのキャバクラとかホストクラブで働いてる人だって夢あるよ。「君は将来自分の店を持ちたいの?」「君はアイドルになりたい?」「じゃあ100万円あげる」っていうのと同じだよ。

おぐら じゃあどういう使い方ならよかったんですか? 

速水 例えばビル・ゲイツの財団は、地球上の種子を冷凍保存する活動をしていて、テクノロジーに投資することで、人類に穀物危機が起こった時の種子バンクを作ったりしてる。

おぐら なんて意義のある……。

速水 これは軍地彩弓さんという編集者が言っていたことだけど、前澤社長もどうせなら、将来ブランドを作って独立したい若者に支援するとか、ものづくりをリスペクトした使い方をすればよかったのにって。

おぐら ファッションの世界は、なかなか世に出られなくてジリ貧でがんばっているデザイナー志望の若者たくさんいますからね。それだったらZOZOとの親和性もある。

速水 そして2月には〈本業に集中します。チャレンジは続きます。必ず結果を出します〉と投稿してツイッターをやめちゃった。

おぐら とりあえず、100万円を手にした人たちは、あれだけ夢を語ったからには「100万円こんなことに使いました」っていう報告があってもいいのになとは思います。

写真=山元茂樹/文藝春秋