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築地本願寺で行われた結婚式

 その翌年、2016年10月10日の体育の日に、僕と亮介君の結婚式が執り行われた。

 僕らが会場に選んだ築地本願寺は、由緒正しい、大きなお寺さんだ。

撮影  前田賢吾(L-CLIP)

 この日は晴天。青空のなかで白い雲が気持ちよさそうに伸びていた。

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 新郎と新夫(しんぷ)の控室で、揃いの羽織に袖を通した僕の表情は、緊張と興奮でひきつっていたかもしれない。少なくとも、亮介君の顔には、緊張がはっきりと見て取れた。

 会場には多くの家族や友人が駆けつけてくれていて、なかでも、両親に出席してもらえたことが、なによりも嬉しかった。そんな家族や友人と会話をすることで、緊張も和らいでいき、沢山の人々に支えられ今日という日を迎えられていることを実感した。披露宴の結びのスピーチでは、身近な人たちだけでなく、僕らのような同性愛者など少数派の権利のために闘ってきてくださった先人たちにも感謝の意を表した。素晴らしい一日だった。

 

幸せな未来を思い描くことができなかった

 婚姻届を提出し、結婚式を挙げることができたのは、亮介君と出会い、夫夫になれたからこそ、たどり着けたステージだ。

 だが、そんな幸せな未来を、過去の自分が思い描くことができていたかというと、そうではない。むしろ、僕は長い間、自分は幸せになってはいけない人間なのだと信じて疑わなかった。前世かなにかで大きな罪を犯したせいで、罰として、ゲイに生まれてしまったのだと思っていたものだから、この人生は罪滅ぼしのためのものなのだと自分自身に言い聞かせ、幸せになることを諦めていたのだ。もちろん、前世の記憶などないのだが。

 そこで、僕が何を考え、何を感じて生きてきたのか、僕の物語を綴っていきたいと思う。過去の恥ずかしい出来事も、ふつうであれば秘密にしておきたいようなことも、書いてみた。なぜなら、この道のりがあったからこそ僕は夫に出会うことができたからだ。(#2「『ふだんの僕は変なんだ』と思わせた、大人たちの恐ろしい善意」に続く)

写真=平松市聖/文藝春秋

僕が夫に出会うまで

七崎 良輔

文藝春秋

2019年5月28日 発売