書籍「僕が夫に出会うまで」
2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。
幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京、
文春オンラインでは中学時代まで(#1〜#9)と、
自分がゲイであることを認めた瞬間から,
物語の続きは、ぜひ書籍でお楽しみください。
2015年9月30日。僕と亮介君はカップルから家族になった。この日から、僕らは自分たちを夫夫(ふうふ)と呼んでいる。
亮介君と付き合い始めてちょうど1年、出会ってからは3年以上経っていたこの日に、僕らは江戸川区役所に婚姻届を提出した。当時僕は27歳、亮介君は31歳だった。
前の晩は、眠れなかった。僕らが男同士で婚姻届を提出すると、窓口の人はどんな反応をするだろうか。
もしかすると「ふざけるな!」と言って、突き返されてしまうかもしれない。そうなれば、僕らの真剣な思いを伝えなければならない。それだけならまだいい。窓口の人が、これは冗談だと、鼻で笑って、話をきいてくれなかったら……。窓口には多くの男女のカップルがいて、みんなの笑いものになってしまったら……。そうなったら、僕はまだしも、亮介君は耐えられるだろうか。
差別的なことを言われて、傷つけられてしまうことだって考えられる。そういう扱いは、今までも、さんざん経験してきた。その時のために、やり取りを録音しておいた方がいいかもしれない。いや、やっぱり、知り合いの弁護士に同席してもらうのが賢明なのかもしれない……。
そんな妄想が膨らみ、不安が次々に押し寄せ、眠気はどこかに行ってしまっていた。
そんな僕の隣で、目をとじて、まるで眠っているように見える亮介君からは、いつもなら聞こえてくるはずの寝息が聞こえない。亮介君も同じ気持ちなのだろう。僕も目をとじることにしたが、頭の中は明日のことでいっぱいだった。結局その夜、亮介君の寝息を聞くことはなかった。
「お2人は、男性同士ですか?」
次の日、僕たちはスーツ姿で、戸籍課の窓口に立っていた。婚姻届を提出する際に、わざわざスーツを着ていく人は少ないかもしれない。ただ、僕たちは、婚姻届を提出するその行為が、いたずらではないこと、真剣であることを、たかが服装であってもキチンとした形で示した方がいいと思ったのだ。
窓口の方は、僕らが記入した婚姻届に指を這わせ、その指は、僕らが記入した文字を追っていた。僕らの目も、その指を追った。指は、僕らの名前の文字を何度も、何度も往復していた。
「亮介さんと……、良輔さん……。お2人は、男性同士ですか?」
「そうです」
僕がすかさず答えた。昨夜僕は、いろんな想定をしていたのだ。こう言われたら、こう言おうと。かかってこい。録音だってしているんだ。偶然にも、僕も亮介君も、どちらも同じ「りょうすけ」という名前だから、余計にふざけていると思われるかもしれない。
「男性同士で、婚姻届の提出をお望みということで、よろしいでしょうか」
「そうです」
「少々お待ちいただけますか」