書籍「僕が夫に出会うまで」
2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。
幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京、
文春オンラインでは中学時代まで(#1〜#9)と、
自分がゲイであることを認めた瞬間から,
物語の続きは、ぜひ書籍でお楽しみください。
北海道に帰省して二日目の早朝、家族はまだ夢の中だが、僕は一睡もせずにお酒を飲んで、気合いを入れていた。飲んでも飲んでも酔いが回ることはなかった。ついにその時がきた。僕は寝ている母を少し早めに起こした。
「お母さん、起きて。話があるんだ」
「なにー? 後にしてよー」
母はまだ寝ていたいと言った。でも二人きりで話せるのは今しかないかもしれない。
「大事な話なの」
母は何か嫌な予感がしたのだろう。むくっと起き上がり、怪訝そうな顔で僕を見つめた。
「なに? なんか怖いんだけど」
母と二人でリビングの食卓の椅子に向い合わせで座った。
「頭を抱える」とはまさにこの事だと思った
「あまりショックを受けないで欲しいんだけど……」
「え、なに。学校辞めたの?」
「ううん、辞めてないよ」
「じゃあなに? 誰か妊娠させた?」
「誰も妊娠させてないよ!」
「じゃあなによ。早く言って。こっちはドキドキするんだから」
「あのー……、僕は、男の人が好きなの、昔からなんだけど。それをちゃんと伝えておきたくて。僕はいわゆる……ゲイなの。男の人しか好きになれない。だからって、病院に連れてっても無駄だよ、治るものじゃないし、治すものでもないんだからね。でも僕はそれでいいと、最近やっと思えてきたの。自分を受け入れることができて、今は幸せ。それを伝えておこうと思って……」
母は大きなため息をついた。両ひじをテーブルに突き、両手で顔を覆った。「頭を抱える」とはまさにこの事だと思った。長い沈黙が続き、その間、母は何度も大きなため息をついていた。
僕からは何も言えなかった。とりあえず母の出方を待つしかないように思えたからだ。
母はうつむいたまま、僕と目を合わせようとはせずに口を開いた。
「それって、本当に治らないの」
「治すものではないし、治らないよ」