書籍「僕が夫に出会うまで」
2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。
幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京、
文春オンラインでは中学時代まで(#1〜#9)と、
自分がゲイであることを認めた瞬間から,
物語の続きは、ぜひ書籍でお楽しみください。
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僕が母へカミングアウトをしたのは、20歳の時だった。
その時僕は、すでに上京していて、両親とは離れて住んでいたから、年に1度あるかないかの北海道へ帰省するタイミングで、直接話したいと考えていた。
親にカミングアウトをするかしないかは、僕なりに、小さい頭脳で悩みに悩んだ。
その結果、一生隠し通す事は不可能だと考えた。いつかカミングアウトをするのなら、なるべく僕も両親も若いうちに、と考えたのだ。
だが、両親は二人とも、昔ながらの体育会系の人間だ。僕をスポーツ選手にたくましく育てたいと思っていた彼らは、息子がゲイであることを快く思うはずがないと思ったし、子供のころを思い返しても、僕がゲイであることを受け入れてくれるような親ではないように思えた。
「男はスポーツ刈りが一番いいんだ!」
当時小学校高学年の僕にとって、前髪や襟足は命も同然だったのだが、ロン毛ではないまでも目に届く前髪が、両親(特に父)には許せないらしい。
「なんだその髪は! 今すぐ髪切ってこい!」
父は僕にお金を渡した。僕はお金を受け取ったものの、髪を切るのが嫌で仕方なかったので、泣いて反発をした。
「いやだ! 切りたくない!」
「なんでだ! それがカッコいいとでも思ってるのか? 男はスポーツ刈りが一番いいんだ! 俺がバリカンでボウズにしてやってもいいんだぞ!」
「絶対いやだ!」
「カッコつけて、髪伸ばして、チャラチャラしやがって! お前は俺が一番嫌いなタイプの男だ!」
そんな言葉で僕がめげるはずがない。
「お父さんは、男はスポーツ刈りが似合うと思って短髪にしてるんでしょ? それだってカッコつけてるじゃん!」
「俺はカッコつけたりしない!」
「本当にカッコつけない人は、他人の髪型にケチをつけない! だって自分の髪型がどうでもいい人が、人の髪型なんて気にしない!」
子どもは理屈で責める。大人の常識では敵わない事がある。そして、大人はそれを口ごたえと叱るのだ。
「口ごたえするな! いいから今すぐ髪を切りに行け!」
「わかった! 髪を切れば、文句ないんでしょ?」
「そうだ」
「髪を切ったらもう文句を言わないと誓う?」
「おう! 誓うから行け!」
僕は父にもらった2000円を握りしめて床屋に入った。目を泣き腫らし、ふてくされた僕に床屋さんは言った。