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 窓口の向こう側には机が並び、多くの人がそこで仕事をしているのが見える。窓口の人がその1人に声をかけ、僕らの婚姻届を見せると、その人がまた違う誰かを呼び、また人を呼び、1つの机に小さな人だかりができていくのを、僕らは見守っていた。この後何を言われるのか。もう覚悟はできている。

 戻ってきたときには、窓口の人と、あと数名の職員がついてきていた。

「大変申し訳ありません」

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 それが、第一声だった。

「本来ならば、この場で処理ができるはずなのですが、いったんこちらで預からせていただいても、よろしいでしょうか。お2人揃って来ていただいたのに、申し訳ありません」

 罵倒されたとき、言い返すために、寝ずに考えていた言葉の数々が、必要なかったことに安堵した。

 

「今はまだ、この婚姻届を受理することはできないんです」

 この日提出した婚姻届は、数日後に『男性同士を当事者とする本件婚姻届は、不適法であるから、受理することはできない』という紙を貼られて舞い戻ってきた。僕らはそれを受け取りに行ったのだが、窓口の方はとても残念そうにこう言ってくれた。

「申し訳ありませんが、今はまだ、この婚姻届を受理することはできないんです」

「今はまだ」という言葉に涙が出た。僕の中で「今はまだ」は、「いつかきっと」という希望を見出せる言葉となったからだ。

 もちろん、婚姻届が不受理となることは、想定した上で提出をした。

 この話をすると、「不受理になるのがわかっていたのに提出するなんて、役所にとってはいい迷惑だ」と役所の職員でもない人に言われたことがある。そうかもしれない。僕はただ、当たり前のことを当たり前にしたかったし、認められないことを前提として、行動を制限されるのが嫌だったのだ。

 そして、いつか日本でも、誰もが平等に婚姻する権利が認められた時には、この提出日に遡って婚姻が認められれば嬉しい。そんな想いもあり、提出させてもらったのだ。もちろん不受理になった婚姻届は今も大切に保管している。