対面した瞬間にハッと息を呑み、目を奪われてその場に立ちすくむ――。
美術はビジュアル表現なのだから、そんな出会い方ができれば最高だ。実際にはそれほどのファースト・インパクトをもたらしてくれる作品は、なかなかないのだけれど。
でも、あるところには、あるのだ。会場で歩を進めるたび、次から次へインパクトたっぷりの作品にぶつかる展覧会が、「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」である。
ビジュアル・インパクトたっぷりの日本絵画
エントランスをくぐり足を踏み入れたとたんに登場する絵が、すでに大迫力だ。一対の屏風で、右手には巨大な白いゾウ。丸っこくてユーモラスな姿ではあるけれど、眺めているとふくよかなボディに吸い込まれてしまいそう。左手にはクジラだ。親しみの持てるシルエットから豪快に潮を舞い上げる様子には、不思議と神々しさすら感じさせる。
伊藤若冲《象と鯨図屏風》だ。奇態な想像力が画面いっぱいに充満していて、展名にある通り、まさに奇想の作品と言いたくなる。
ほかにもニワトリを細部まで描き込んだ《紫陽花双鶏図》など、若冲作品がたくさん並ぶ。その先には絵巻物が置かれている。風雅な光景がつらつらと描かれているわけではなく、描写されているのは血まみれの人物が青黒くなっているさまなど。なかなかショッキングなこの作品は、岩佐又兵衛《山中常盤物語絵巻 第四巻(十二巻のうち)》である。
そのあとも、描く人物や生きものすべてがまるで妖怪かバケモノかに見えてしまう曽我蕭白。几帳面で風格ある作風なのに、どこか狂気が画面から滲み出る狩野山雪。逆にのびやかでのんびりした雰囲気が過ぎて、どこまで本気に描いているのかわからなくなってくる長沢芦雪。きのう描かれたばかりなのではというほどビビッドな色合いが印象的な鈴木其一。アイデアの豊富さと大胆な画面構成で浮世絵版画界の人気者だった歌川国芳。そして何にもとらわれない自由な発想から描いた禅僧の白隠慧鶴と、ひと目で人を驚かせることのできる絵師たちの作品が続々と出てくる。