「新しいんですよ、これ。私はいままで300冊以上の写真集を出してきましたけれど、こんなのは初めてですよ」
写真界の巨匠・篠山紀信さんが、前のめりになって話してくれた。こちらが少し面食らってしまうほどの高ぶった様子で。
年末に3冊同時、さらに1月には4冊目が刊行された、「première」という写真集シリーズのことだ。
「これから」の3人が伸びやかで開放的な姿を見せる
山口百恵、宮沢りえ、AKB48……。時代を画する名だたる女優、アイドルの姿をつねに写真に収めてきたのが、篠山さんである。今回も著名な人選かと思いきや、ちょっと趣が異なる。
大学生時代に「キャンパスクイーン」として活動し、卒業後はソロで女優業などを展開してきた「これから」の3人が、モデルとなっている。結城モエ、高尾美有、松井りなの3人だ。
彼女たちがひとり1冊ずつ主役となり(1月刊の『la maison de la ruche』は3人そろっての登場)、着衣と脱衣の姿を繰り返しつつ、魅力的な表情や肢体を見せてくれている。
そのさまが、異様なほど伸びやかで解放的だ。書を閉じたあとにまで、彼女たちの姿が残像となってしばし消えないほどの強い印象が残る。なぜなのだろう。篠山さんが上気して「新しい」と強調することと、何らかの関係があるのかもしれない。
被写体自らが「篠山紀信さんに撮ってもらいたい!」と要求
この写真集の「新しさ」を、篠山さんはこう教えてくれる。
「被写体となる彼女たちが、自分たちの意思でことを運んだところがポイントです。
ふつうは事務所や出版社が、この人を撮ってほしいと依頼を持ちかけてきて、撮影の仕事は始まるものです。ところが今回は、発案者であり実現へ向け周囲へ働きかけたのが、彼女たち自身だったんです。
表現の仕事をしていきたい、けれど『キャンパスクイーン』も卒業したし、これからどうしたらいいだろう……。そんな悩みを抱えた彼女たちは、みずから行動を起こします。『いまの私たちを表現したい!』と事務所の社長に直訴したのだそうですよ。そうして『篠山紀信さんに撮ってもらいたい!』と要求したらしい。それで僕のところへ話が持ち込まれたわけです」
その後、本人たちと面会し、テスト撮影をしたり幾度も話し合うなかで、彼女たちの「表現をしたい」という意思が本物であり強固であることは確認できた。それならばと刊行する出版社も決めて、企画が動き出し、こうしてかたちをなすこととなった。
つまりこれは、成り立ちからして被写体主導の写真というわけだ。被写体である彼女たちは、生き方やこれから進む道を賭けてカメラの前に立った。それゆえ、これほどまでに伸びやかで躍動感ある写真群が生まれたということなのだろう。
被写体になった3人にとって、これはどんな体験になったのか。何を思ったか。進むべき道が見えただろうか。それぞれに話を聞いた。