失恋の痛みはどうしたら消し去ることができるのか。そんなごく個人的、それでいて万人に関係するテーマを扱った展覧会が開催中だ。東京品川、原美術館での「『限局性激痛』原美術館コレクションより」。
記憶と思い出の品を、作品に仕立て直す
聞き慣れない「限局性激痛」という言葉は、医学の専門用語。身体の限られた部位にのみ生じる激しい痛みや苦しみのことだ。人が失恋を経験したときの胸の痛みは、医学的根拠があるかどうかはわからぬが、誰しも思い当たるところがあるもの。最も身近な限局性激痛と言えるだろう。
フランス人アーティストのソフィ・カルは、この痛みを作品化した。彼女はあるとき、人生で最悪の痛手と感じられるほどの失恋に見舞われる。当時は泣き暮らすばかりだったが、しばしのときが経つと、とっておいた思い出の品々をひもとこうという気持ちになった。
行動を記録したメモ、旅行先で使った地図や紙幣、こっそり持ち帰ってしまったホテルの鍵、ポラロイド写真やスナップショットの数々。当時の記憶を掘り起こしながら、ソフィ・カルは、失恋までの数十日をカウントダウン形式で再構成していった。
「●日前、愛している男に捨てられた」という一文で始まるテキストと、恋人への手紙や写真を組み合わせたものが、ずらりと並ぶかたちで構成されるのが作品の第1部。第2部では、自身の失恋の顛末を他人に話し、代わりに相手から最も辛かった経験を教えてもらい、そのさまざまな不幸話と自身の心境の変化を、刺繍で綴られたテキストと写真で表現してある。
自分の体験を素材にして出来上がった作品からは、異様な迫力が漂い出ている。事実の強みの為せる業か、はたまた自己をさらけ出すことの覚悟がひしひしと伝わってくるからか。