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山口の中高生と映画を撮ってわかった「人はなぜ演技をするのか。なぜ映画は物語を描くのか」

映画監督・三宅唱インタビュー

2019/03/26
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いい意味で空気を読まない

──シナリオ自体も、出演者の彼らの意見がかなり反映されているんですか。

三宅 そうですね。たとえば朝集まってもらって「こういう話とこういう話、ふたつ書いてきたけど、どっちがいいと思う?」と聞いて、両方の本読みをして、「こっちのほうがしっくりくるね」となったらそっちを選んだり。あとは撮影しながら一緒に台詞をブラッシュアップしています。彼らは平気でダメ出ししてくるし、つまらないアイデアに正直に反応してくるので、ずっと気が抜けなかったです。おじさんおばさんは「なるほどですねえ」とか言ってごまかすけど、彼らはいい意味で空気を読まない。

──三宅監督の前作『きみの鳥はうたえる』も、とても自然体な3人を映し出しながら、やはり決定的な瞬間を劇のなかで描いていきますよね。単純に3人の物語、ということだけじゃなくて、2作品のつながりを感じてしまいます。

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三宅 男ふたりと女ひとりの物語になったこと自体は偶然なんです。でも、『きみの鳥~』が恋にだらしない姉兄だとしたら、『ワイルドツアー』という野放図な妹弟ができた感じだなあと思っています。

──それぞれの制作時期は?

三宅 2017年6月末に『きみの鳥~』を撮り終わり、8月末から山口で滞在をはじめ、翌年の2月から『ワイルドツアー』を撮り始めました。山口に滞在中もずっと『きみの鳥~』の編集をしていて、かなり並行して作業をしてましたね。結局『ワイルドツアー』のクランクインの3日前に東京のスタジオに行って『きみの鳥~』が完成しました。

──大きな違いとして、やはり『きみの鳥~』は職業俳優を使って撮った劇映画であり、『ワイルドツアー』は職業俳優ではない人たちを使って撮った劇映画である。そこの演出の違いというのはいかがでしょうか?

三宅 『きみの鳥~』の役者たちは、本当にどえらい役者たちですから。そういう意味では、まったく違うといえば違う。でも僕の仕事はどちらにせよ、なるべく彼らにリラックスしてもらって一緒に楽しみたいというのは変わらないです。そのためのやりとりはプロの役者でも一人一人ちがいます。

三宅唱とゆかいな仲間たち

──映画のなかで、彼らはどんどん自然のなかに分け入って、彼ら自身が野生動物のようになっていきますよね。それをiPhoneという最先端の技術でとらえていく、その対比がおもしろいなと思いました。

三宅 映画のなかでは、実際に彼ら自身がiPhoneで撮った映像もたくさん使っています。雪がものすごく降った日なんか、普通のカメラが壊れそうだったので、彼らにiPhoneを渡して自分たちで撮ってもらった。だから撮影クレジットに彼らの名前も載せています。劇中で彼らが採取する植物も彼ら自身で決めている。監督のクレジット自体を「三宅唱とゆかいな仲間たち」にした方がいいかもしれないですね。ちなみにシュンという役名も、「名前何がいい?」って聞いたら本人が「小栗旬がいい」って答えたからでした。本人としてはボケのつもりだったと思うんですが、僕が「いいじゃん。それ採用」って言ったもんだから、「あ、この人なんでも受け入れちゃうからボケてる場合じゃない」と気づいたみたいで、それ以降はそういう冗談は言わなくなりました(笑)。

──彼らは編集の段階にも立ち会ったんですか?

三宅 編集には立ち会ってないですが、現場で撮ったカットをその場ですぐにモニターでプレビューしながら、いろんな話をしました。「これはちょっと間が悪いね」と自分たちを客観視したり、「今のはうまくいかなかったからもう一回やりたい」って言い出したり。あと、心の中でどれだけ感じてもカメラには映らないから目に見えるように演技しよう、なんてことも彼らは自分たちで発見しました。彼らを子供扱いしない、ということは決めていた。子供だからわかんないよな、とは絶対に言わずに、対等な人間として普段通りしゃべれば彼らもついてくるし、わからなかったらわからないと素直に言ってくれる。そういう信頼関係はつくれたかなと思います。