大宮や浦和はJRと繋がっているから人気が出たのはわかる。昔の自虐マンガで盛り上がるのも面白い。だが、埼玉県のほかの街にそんなに魅力的なところはあるのだろうか。埼玉県内には40もの市が存在するが、例えば鴻巣、蕨、越谷、幸手、入間、加須などといって、その市の正確な場所を言い当てることができる人は埼玉県民でさえあまりいないだろう。特に東武線や西武線の駅名も含めて、東京都や神奈川県に住む人間から見れば、どの駅がどの線にあってどっちが東京都に近いのかまるでちんぷんかんぷんだ。
なぜ川越市は脚光を浴びるようになったのか
だが、そんな「印象の薄い」埼玉県内の街で最近、俄然脚光を浴びるようになった街が出現してきた。
まずは川越市。この街は市の中心部にJR川越線、東武東上線、西武新宿線が集まる街。池袋や新宿に通勤するサラリーマンにとってのベッドタウン的な存在として発展してきた。だがこの街は不動産屋的にみれば、なんとも中途半端な街である。JRの「川越」駅、東武東上線の「川越市」駅、西武新宿線の「本川越」駅、この3つの駅が微妙に離れて繋がっていないのだ。ご丁寧にも駅名も全部微妙に違うのもこんがらがる原因だ。つまりよく言えば3駅利用可能。だが現実的には都心居住が強まる中、通勤としてはいかにも中途半端で使えない駅が集積されただけの街というのが川越に対する評価だった。
ところが、見方を変えれば川越は古くから蔵造りの家が立ち並ぶ歴史と風情のある街。この街は最近、観光という観点から見直されはじめ「小江戸」として多くの観光客を招き入れることに成功している。古ぼけたような街並みに見えた通りが「菓子屋横丁」として脚光を浴び、大正浪漫夢通りとして地酒を売る店や喫茶店は、暇になったリタイアメント層や学生、外国人観光客など大勢の観光客で賑わっている。
人が集まるようになれば、もともと神社仏閣が多いこと、新河岸川沿道の桜並木、川越の蔵造りで最古といわれる大沢家など、ネットで勝手に取り上げられるようになった。ぶらぶら歩きには実は微妙に離れている3つの駅も、まことに都合が良いのだ。