北海道知事との懇談会で元島民が語った思い
北海道の高橋はるみ知事が2月末、根室市を訪れ、元島民や後継者ら11人との懇談会を開いた。高橋知事にとっては任期満了で今年4月に退任するのを前に、知事として元島民らの意見を聴く最後の機会。
知事は今夏の参院選に自民党から立候補する予定で、「元島民と会うのも選挙PRだよ」と白けムードの人もいたが、出席者の一人が「国政で安倍総理とタッグで領土問題を解決してほしい」とエールを送ると、参院選での当選が「まだ決まったわけではないので……」と知事がニコニコと応じる和気あいあいの場面もあった。
懇談会では出席者が一人ずつ順に思いを語った。
歯舞群島・志発島出身、別海町の臼田誠治さんは「島を返せ」を封印されたことが、やはり腹にすえかねるようで、「国の指導に則って、右向けば右向いて、返還運動を50年やってきた」と切り出した。
「右向けじゃなくて、今度は左向けというように、返還運動の質が変わってきたんじゃないか。私も80歳になりました。簡単に左を向いて運動は難しい。それが私の本音です」
臼田さんはこの日、口数が少なかった。懇談会が終わった後、知事を見送る臼田さんに筆者が真意を尋ねても「いや、もういいよ」と首を振るだけだった。
色丹島が、目を見張るほど発展していた
標津町の福澤英雄さんは歯舞群島の多楽島出身の78歳。元島民の平均年齢が84歳になろうとしている今、福澤さんは比較的若い元島民の一人である。
福澤さんは発言する内容をメモしてきた。一つは、町内の高齢化した元島民の思い。「まだおれたちの目が黒いうちに、返るなら返る、返らないなら返らない、と白黒決着をつけてほしい、というのが共通の願いです」と訴えた。
二つ目は、昨年、友好訪問団の団長として色丹島に行った時のこと。国後・択捉二島に比べてインフラ整備が遅れていた色丹島が、目を見張るほど発展していた。「ロシア本土から巨額のお金が投じられています」と福澤さん。
色丹島の開発が遅かったのは、56年宣言で「引き渡し」対象となったからだと言われてきた。だからロシアは色丹島を返すはず、という期待につながっていた。その色丹島に、病院、幼稚園、学校、スポーツジムまでも建っていたという。「四島どころか、二島も無理か」と元島民の間で悲観的な見方がじわじわと広がるのも無理はない。