中島地域でないと育たない「中島菜」の風味と成分
「ゆったりコース」はオプションとして食事の提供もある。スイーツプランは能登出身の有名パティシエ辻口博啓が手がけた車内限定の菓子を提供する。料金は3000円。寿司御膳プランは和倉温泉の名店「能登すしの庄 信寿し」の寿司弁当が付く。料金は4,000円。ほろ酔いプランは能登杜氏が造る地酒、能登ワイン、地ビールと酒肴のセット。料金は3,500円。車内でうまいもん食べて、海を眺めて、という贅沢な時間を楽しめる。
能登中島駅の鉄道郵便車も興味深かった。それ以上に土産コーナーで売っていた中島菜という野菜が気に入った。小松菜や野沢菜のような「ツケナ類」で、ほろ苦さと辛さがある。塩漬けにしても花を咲かせると伝わるほどの生命力があるとして、中島地域で食べ継がれてきた野菜だ。科学的に調査したところ、血圧上昇を抑制する成分が他の葉物野菜より多かった。そして不思議なことに、この風味と成分は中島地域で育てないと得られない。種を他の地域で植えても中島産と同じにはならないという。
イルカの見つけ方は魚がいるところを飛ぶ海鳥
「今日はイルカさんたちに会えませんでしたね」とアテンダントさんが申し訳なさそうに言った。七尾湾には野生のイルカの群れが棲んでいるそうだ。まず2頭が目撃され、調査したところミナミバンドウイルカだった。世界最北端の生息地と言われているそうだ。
「最近はどこか遊びに行っているようで、能登島の周辺で見かけるようです」
毎年6月に赤ちゃんが生まれて、現在までに14頭が確認された。頭数が増えて2グループに分かれ餌を探し回っている。イルカの見つけ方は海鳥。海鳥は魚がいるところを飛んでいるから、その魚を目当てにイルカもやってくる。七尾湾は穏やかだから、イルカの背びれがすぐわかるそうだ。
しかし今日はいない。その代わり白鳥がいた。おおよそ30羽の群が訪れ、3月初め頃に旅立っていく。アテンダントさんの説明を聞き、乗客が車窓に注目する。運転士さんが気を利かせて徐行してくれた。
私は14年前にのと鉄道に乗り、蛸島まで乗り通した。あのときは漫然と七尾湾の景色を眺めただけで、正直に告白すれば印象は薄かった。しかし「のと里山里海号」に乗り、アテンダントさんの話に耳を傾けると、車窓まで違って見える。この地域の風土、人々の暮らし。ずっと前から知っていた気分になる。まるで故郷だと錯覚したように。
今日はイルカを見られなくて残念だった。でも、また乗りに来よう。故郷のように気に入った鉄道だから。
撮影=杉山秀樹/文藝春秋