石川県の能登半島中央部に和倉温泉がある。金沢からJR西日本の特急「能登かがり火」で約1時間、1日5往復。同じ区間に観光列車の「花嫁のれん」が2往復。大阪からも特急「サンダーバード」のうち1往復が和倉温泉まで足を伸ばす。

 さすがは全国有数の温泉街だ。かつては京都大阪からの直通特急も多く、近畿方面からの観光客が多かった。北陸新幹線が金沢に到達してからは、関東からもアクセスしやすい。美しい海から湧き出す良質の温泉と新鮮な海の幸。風光明媚、温泉、グルメと三拍子そろった完璧なリゾートだ。

のと鉄道路線略図(地理院地図より筆者加工)

北陸新幹線の客を取り込め

 のと鉄道の観光列車「のと里山里海号」は、和倉温泉に来たお客様に、もっと能登を楽しんでいただくために企画された。和倉温泉からさらに北へ、穴水まで約1時間の旅だ。能登島を囲む七尾湾沿いを走る。日本海と言えば荒波という印象が強いけれど、七尾湾は穏やかだ。今日はやや風が強く、小さな波が模様を作り、ときどきキラリと光る。水面には牡蠣の養殖筏がタイルのように並んでいた。

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のと里山里海号
 

「のと里山里海号」のアテンダントさんは「地元の魚好きのかたは、輪島と穴水では同じ種類の魚でも味が違うとおっしゃいます」という。輪島は能登半島の西側沿岸、いわば背の部分の町だ。のと鉄道は能登半島を横断し、輪島にいたる七尾線を運行していた。

「のと里山里海号」の車内には、ボックス席のほかに、南向きのカウンター席とソファーがある

 能登線も現在は穴水止まりだけど、その先の蛸島まで達していた。経営難で赤字区間を廃止し、タコが自分の足を食べるように、蛸島へ行く線路を切り落とした。残った区間が七尾から和倉温泉を通って穴水までの約33kmだ。この区間の線路はJR西日本が所有している。上下分離での下が自治体ではなくJR。珍しい形態だ。

輪島塗は、石川県輪島市の名産品

 JR西日本は七尾から和倉温泉まで特急列車を走らせている。しかし、のと鉄道は不利だ。あまり儲からない普通列車を末端区間まで担当している。地方ローカル線の例に漏れず、のと鉄道も少子化やマイカー利用による乗客の減少、燃料高騰で厳しい経営が続く。そこにチャンスがやってきた。北陸新幹線の金沢延伸開業だ。従来の近畿圏のお客様だけではなく、首都圏からも観光客が増えるだろう。しかし、そのほとんどが金沢市内観光かもしれない。なんとか能登へ足を伸ばしてほしい。