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競技以外に仕事を持ちながら生活している選手も多い

 そもそもスポーツ選手が「職業」として認知されるには、大きく2つの要素が関わってくると感じる。

 ひとつは競技を続けながら生活できる収入を得ていること。これは別に競技だけで生計を立てるという意味ではなく、その競技を継続しながら、副業を含めて食っていけるという状態だ。

 そしてもうひとつが、その競技の結果やプロセスで、一定以上の人に影響を与えているということだろう。例えばサッカーのJ2、J3のチームやバスケットボールのB2、B3のチームには、純粋なプロではなく競技以外に仕事を持ちながら生活している選手も多い。それでもチームそのものの影響力や地域性などで、多くのファンにその活動を認知されている。だからこそ、彼らは職業として「サッカー選手」「バスケットボール選手」をやっていると胸を張れるわけだ。

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 翻って陸上競技を考えると、いままさにこれらの条件を埋めるチャンスがようやくやって来ている。

2018年10月、シカゴマラソンで日本記録を更新した大迫傑 ©AFLO

 前述の桐生や大迫は、現在、実質的にプロ選手として活躍し、複数の企業とスポンサー契約を結ぶ形で競技を続けている。他にも欧州でのリーグ戦などで上位に入ることで、賞金を稼ぐことも可能だ。そうしてメディアの露出を増やすことで、多くの子どもたちの憧れになることもできる。

過去ないほどに陸上競技そのものに多くの人の目が向いている

 また、近年は実業団ではなく普通の企業や自治体に勤めながら競技を続けるようなケースも増えてきている。

 埼玉県庁の職員として活躍し、今年4月からプロになる川内優輝はその典型的なパターンだろう。陸上競技が個人競技であるという特性を上手に活かして、自分の時間をやりくりしながら実力をつけて行ったケースだ。川内の場合は、そのバックボーンから一般の市民ランナーたちも共感を持ちやすく、影響力は大きかった。学生時代の実績には乏しいが競技を続けたいと思う若手選手にも、新しい道を提示してくれたともいえる。

プロ転向を表明している川内優輝 ©文藝春秋

 今回の調査で結果が出たように、現在、過去ないほどに陸上競技そのものに多くの人の目が向いているのは事実だ。だからこそ、運営サイドにはこの追い風を止めることなく、「職業・陸上選手」の認知を広める努力をしてほしいと思う。

 東京五輪というイベントや、1億円の報奨金というインパクトの強さだけで終わってしまっては、五輪後にはまた元に戻ってしまう。SNSを通じた新たな大会の運営や、ストリーミングでの競技配信など、新たな可能性を感じる施策も増えてきている。そういった新しい要素も活用しながら、各選手や運営側が世間への影響力を高めることで、「子どもたちの将来の夢」としての立場を確立できるのではないだろうか。