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動体視力を身に付けるためのトレーニング

 携帯電話の普及もあり、活字離れが叫ばれる昨今、岡本少年は読書でも両目を活性化した。小学校時代、「本を速読すると動体視力が良くなると聞いたので」とインターネットで調べ上げ、何と速読法を習得。一般的にページの端から一文字一文字と順を追って読み進めるのではなく、一瞬でたくさんの字を認識できるようになった。以来、読書好きでプロ入り後も百田尚樹の小説などたくさんの本を読んでいたが、読了までの時間はいつもあっという間だった。

 智弁学園時代の授業中も頭は野球のことだけだった。視線の先は教科書や黒板ではなく、窓から見える金剛山。「緑色と遠くを見ると目にいいと聞いたので」と毎日毎日、眺め続けた。どんなに練習や試合で疲労がたまっても居眠りなど一切せず、ただ眼力を強化するため、遠くにそびえる山々を凝視。巨人に入団後、その成果が数字で如実に表れた。新人合同自主トレのビジョントレーニングでは球団レコードを樹立。身長185センチ、体重96キロの恵まれた体型だけではない。幼少期からグラウンド外のプライベートも何から何まで24時間、野球のために時間を注ぎ、プロの世界でも戦う上で大きな武器を手にしていた。

 2018年は全143試合に出場し、打率3割9厘、33本塁打、100打点。輝かしい数字に隠れて、72四球はリーグ11位だ。もともとパワーに定評のあった男が、初の打率3割を現実のものとする大きな要因となった。今年のオープン戦は、3月9日のメキシコ戦で侍ジャパンの4番に座るなど、一時チームを離れて11試合出場ながら11四球。選球眼にますます磨きがかかり、確実性とパンチ力を併せ持つ打撃はさらに脅威となった。

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幼少期から24時間、野球のために時間を注いできた岡本和真 ©文藝春秋

 さて、レギュラーで考えるとプロ2年目。数字に関しては三冠王という目標を掲げるが、稀代のホームランアーチストとして、ファンを魅了して夢を届けるプロフェッショナルとして、その目に見据えるのは、究極の一発だった。

「誰も打ったことのないホームランを打ちたいんです」

 球場に足を運んでくれたすべての観客を総立ちにさせ、客席を興奮の渦に巻き込む究極のアーチ。近年だと外野スタンドのはるか上に打球をぶち当てる看板弾や、2015年にソフトバンクの柳田悠岐が横浜スタジアムのスコアボードを破壊する一発を放ったのも記憶に新しいが、これは全て現実となったもので巨人の4番が思い描くものではない。

 東京ドームの天井をぶち抜いて文京区にボールを届ける一撃か、内野手の頭上を通過したライナーをそのままスタンドインさせるか。はたまたインパクトの瞬間、縫い目ごとボールを粉々にする白球破壊弾もいいかもしれないけど、これが実現したら柵越えにはならないか。巨人ファンの瞳に、漫画のような世界を映し出すことができるニュースター。それが岡本和真という男である。

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