「さいたま市さん、そんなにムキにならないで」
ただし、各務原市はさいたま市に白旗を上げている。植樹の間隔で敵わないのだ。さいたま市は30メートル以内の間隔でないと並木としての連続性はないというルールを定めて植えてきた。各務原市の担当者は「うちの桜回廊は見えないほど離れている場所もあります。連続性となると10キロメートルにも満たず、胸を張って日本一とは言えません。どこかの自治体に『桜並木の定義はこうだから、うちこそ日本一だ』と言われたら、どうぞ、どうぞという感じです」と話す。
「『さいたま市さん、そんなにムキにならないで。楽しめる場所ができたということでいいのでは』と言う人もいました」と前出の岩木山観光協会の小山事務局長は話す。実は、弘前市もギネス世界記録への登録を目指したが無理だったという経緯がある。「植樹の間隔がどれくらいかなど並木の定義が明確ではないとされたのです。それどころか、認定機関から『自慢げに世界一と言うな』と言われたそうで、私達もチラシなどでは『世界一の桜並木にしたいという思いで植樹した』という程度の表現に止めています」と苦笑する。
こうした“長さ争い”は新たな問題を生む。過酷な自然環境や病害虫に弱い桜並木の維持だ。弘前市では除雪で傷つくなどして枯れ、一時は約4700本にまで減った。市の予算で補植しており、「ようやく5000本を上回りました。早く6500本に戻したい」と小山事務局長は語る。
各務原市の担当者は「本数が多すぎて、もう桜の生命力に任せるしかありません」と話す。同市は並木の植樹にあわせて、全国から取り寄せた約200種類の桜を公園に植えたが、気候が合わなかったせいもあり、1割以上が枯れた。
さいたま市の担当者は「市民のサポーターに維持管理の協力をお願いできないか研究中です」と言う。
植樹は一時の熱情でできても、維持は長い取り組みになる。本当の自治体の力が試されるのは、これからなのだろう。