昨年度の将棋界も色々なニュースがあった。羽生善治の27年ぶり無冠転落、藤井聡太の朝日杯2連覇、豊島将之悲願の初タイトル、渡辺明の完全復調……一つひとつ挙げると折る指が足りなくなってしまいそうだ。

女流七冠の現実味を帯びつつある

里見香奈女流四冠 ©相崎修司

 その中で女流棋界に注目してみると、やはり里見香奈女流四冠の活躍に目が行く。渡部愛に女流王位奪取を許したが、その後はまったくの負け知らず状態で圧倒。「女王」の座をかけたマイナビ女子オープン、さらには奪われた女流王位への挑戦も決めた。前人未到の女流六冠、ひいては女流七冠も現実味を帯びつつある。

 里見が一人、女流棋界を席巻しているのは間違いないが、ある視点からは女流棋士全体のレベルが向上しているという事象も見出すことができる。

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 2018年度の「女流棋士の対男性棋士成績」がそれだ。1年間を通して16勝20敗(勝率0.44)という成績だった。これは、勝ち数、勝率ともに過去最高の記録だ。

 タイトル獲得などの実績を挙げた女流棋士は、女流棋戦とは別に男性棋士が指す公式戦への参加資格を得られる。史上初めて女流棋士が公式戦への参加が認められたのは1981年2月19日の新人王戦で、山下カズ子女流五段が高橋道雄九段と指したものだが、当時はまだ男性棋士との実力差が歴然としていた。女流が初勝利を挙げたのは1993年12月9日の竜王戦で、中井広恵女流六段が池田修一七段を下したのは大きなニュースとなった。

昨年夏に行われた藤井聡太七段との対局(棋聖戦1次予選)は大きな注目を集めた。結果は藤井の勝ちだった ©文藝春秋

いきなり5割近くの勝率となった

 それからも女流棋士の勝利は続き、参加できる棋戦の数も増えた。ただ、トータルの勝率で見ると、勝てて2割ほどという時期が長く続いていた。2017年度も、1勝19敗という厳しい成績だった。

 ところが里見の昨年度における対男性棋士成績をみると、7勝8敗とほぼ五分の成績である。里見は女流棋士と奨励会員の二足の草鞋を履いていたことから、ここ数年は公式戦への参加が認められていなかったが、奨励会へ編入する前の2010年度の成績は2勝9敗だった。この年は女流三冠となり、現在まで至る「里見時代」の地盤を築き始めていた。女流棋界ではすでに敵なしになりつつあったころである。それでも対男性棋士では2割しか勝てなかった。それがいきなり5割近くの勝率となったのだ。