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里見以外の女流棋士も……

間もなく防衛戦を迎える渡部愛女流王位 ©文藝春秋

 これだけでは、以前と比較して実力の向上した里見が、女流棋界の中で突出して強いだけではないかと思われるかもしれない。女流棋戦の結果からみるとそれは事実だし、また昨年度は奨励会三段リーグとの二足の草鞋を履く生活から解放されたことが、プラスに作用したという面はあるだろう。

 だが、里見以外の女流棋士も、対男性棋士の成績は向上しているのだ。

 まず、渡部愛女流王位についてみてみよう。昨年度の渡部の対男性棋士成績は4勝6敗と、こちらも4割は勝っている。王座戦1次予選では、3連勝して準決勝に駒を進めていた。2017年度と2016年度は公式戦の参加資格を得ておらず、2015年度は2局指して2敗だった。

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 北海道出身の渡部は、同郷の野月浩貴八段からコーチングを受けているという。

 続いて伊藤沙恵女流二段。伊藤は10歳で奨励会入りして、その後1級まで昇級したという経歴の持ち主だ。今年度は5勝5敗と、こちらは名実ともに五分の成績の成績を残している。伊藤が女流棋戦で活躍したのは4つのタイトル戦に出た一昨年度なのだが、この年度は対男性の視点で見ると、0勝5敗とまったく勝っていない。

2019年1月23日、竜王戦6組で高田尚平七段と対局した伊藤沙恵女流二段 ©相崎修司

 なぜ、対男性の成績が向上したのだろうか。まず里見に関しては、三段リーグの経験が大きいと言えるだろう。精神の削られる環境で強敵たちと年間36局を戦うことがプラスにならないわけがない。最近の新四段はデビュー後すぐに勝ちまくる棋士が多いことも、三段リーグのレベルの高さを証明している。里見は四段昇段には至らなかったが、プロの下位層とは互角に戦う実力を持っている。奨励会三段とはそういう存在なのだ。

3名とも「長い時間の方が好き」

 渡部と伊藤についてはどうか。まず里見に追いつけ追い越せの気概を持ってやってきたことが、結果に結びついたのではないかと推測できる。

 もう一つの要因が、女流棋戦と男性棋戦における持ち時間の長さの違いだ。女流棋戦の持ち時間は2時間ほどだが、男性棋戦のそれが3~6時間(双方ともに例外はある)であることからすると、男性棋戦のほうが考える時間は多い。

女流名人戦では、挑戦者の伊藤沙恵女流二段(中央左)を退け、10連覇を達成した里見香奈女流四冠(中央右) ©相崎修司

 経験では短時間により慣れているのは確かだろうが、長い時間の方が個人の適性として向いている可能性はある。事実、この3名とも「長い時間の方が好き」と語っている。そして男性棋戦に出る機会が増えれば、長い持ち時間の対局経験も増えることになる。

 自身の実力アップと、持ち時間への適性。この2点が女流棋士の対男性成績を向上させたのではないだろうか。

 アマチュア棋士と同様に、女流棋士もプロ公式戦で10勝5敗以上の成績(厳密には「最も良いところから見て10勝以上、なおかつ6割5分以上の成績」)を挙げれば、プロ編入試験の受験資格を得ることができる。まだその段階に達している女流棋士はいないものの、急速なレベル向上を目の当たりにすると、あながち夢物語とも言い切れない。今後も公式戦での対局から目が離せない。

【訂正】女流棋士による公式戦への史上初参加を「1981年3月20日の新人王戦で、蛸島彰子女流六段が飯野健二七段」としておりましたが、正しくは「1981年2月19日の新人王戦で、山下カズ子女流五段が高橋道雄九段」です。お詫びして訂正します。