これまた東芝についてのものだが、小笠原啓『東芝 粉飾の原点』は、そうした上から下へのパワハラの連鎖がよくわかる。これは日経ビジネスに寄せられた800人以上の社員やOBらの内部告発がもとになっているが、その証言のひとつにこうある。「達成不可能な目標を自己申告させられ、その後の進捗会議で上司から締め上げられる。その際に繰り返される言葉が『施策を出せ』」。
目標の数字もそれを達成するための施策も自分から言わせるのがミソだ。「やるって言ったよね?」と追い込みをかけるためである。悲しいことにその上司は上司で、そのまた上司に同じことをさせられる。中間管理職は「下に甘い」と言われるのがなにより怖い。ちなみに映画「七つの会議」は冒頭でこうしたパワハラの構造を巧みに見せている。
夜中の2時に飛び込み営業をさせられる
数字に取り憑かれた会社の極めつけは三宅勝久『大東建託の内幕』だ。架空契約に闇金からカネを借りたり、
深夜まで営業して帰ろうとすると、上司から電話があって、「家に帰る途中に飛び込めるところがあれば行け。コンビニ、警察、消防。24時間やっているところがあるだろう」と言われ、夜中の2時3時まで飛び込み営業をさせられる。また自殺した社員の妻は「PHS持っていると家にいるのがバレてしまうんです。どうしても子どもを風呂に入れてほしいときはPHSをほかの場所においてこっそり帰宅していました」。
そうまでして作られた数字の恩恵は誰が受けるのか。ストックオプションやらなんやらによって、会社の上層部が受けるのである。
いい意味で数字にこだわった会社
数字は会社員を追い込む恐ろしいものだが、いい意味において、会社をあげて数字にこだわったノンフィクションを最後に紹介する。戸部田誠『全部やれ。』だ。これは日本テレビが1994年に当時“絶対王者”とまでいわれたフジテレビを視聴率争いで逆転する模様を書いたものである。