当時、日テレのトップは氏家齊一郎、若い方ならジブリ映画の後見人としてご存知だろうか。あるとき、氏家は年齢的には30代の中堅プロデューサーらを集めてこういう。「お前ら、日本テレビを良くするために必要なことを全部言え」。その中には「進め!電波少年」の土屋敏男らがいた。彼らが「こうしないとダメだ」などと問題点や不満を言うの聞いた後、氏家は「お前らが言ったことを明日から全部やれ」との発破をかける。
ヤバい組織は上と下がやりとりすることを嫌う
実は会社組織はこういうのを嫌う。上述のようなケースだと、社長と30代の者らのあいだにいる、局長や部長といったひとたちが、自分を飛び越えて直接やりとりするのを嫌うのだ。「自分の立場がなくなるじゃないか」と。
そういえば前掲の『東芝 粉飾の原点』にこんな逸話がある。若手と社長の懇談会が開かれるが、そこで「開発が遅れて苦労しています」と正直に話したところ、社長は「そんな話聞いてないぞ」と怒り出して大騒動になり、その事業部内では「これからは偉い人と話すメンバーの人選には気をつけるように」との通達が出る。こんな組織では「もの」をつくる現場の声は上にあがっていきにくい。
「手柄は人にあげましょう。そしてそれを忘れましょう」
しかし日テレは違った。だから上から下への押し付けではなく、それぞれの者がそれぞれの立場で当事者意識をもって視聴率の追求に取り組めたのである。いわばオーナーシップ型の組織だ。
そんなふうにして組織をあげて視聴率を追える会社となった日テレは黄金時代を築いていく。いっぽうで氏家は「自分で汗をかきましょう。手柄は人にあげましょう」との竹下登の言葉をもじって、こんな言葉を残している。「自分で汗をかきましょう。手柄は人にあげましょう。そしてそれを忘れましょう」(見城徹『たった一人の熱狂』)
さて。会社という世界に足を踏み入れたばかりの新社会人の皆さんは、しばらくして上述のノンフィクション諸作を読めば、勤務先にいる同類のひとたちの姿を見るに違いない。見栄っ張りのひと、上司と部下の板挟みのひと、仕事に追われて自分を失ってしまったひと。それが数年後には、そこに自分の姿をみることになるかもしれない。……我に返る。そんな機会を得られれば幸せだ。それによって、ときに自分や回りの者の命が救われることだってあるのだから。