『ひみつのアッコちゃん』『魔法使いサリー』などで作画監督を務めた奥山玲子氏(1936~2007年)は、日本の女性アニメーターのパイオニアと言われている。
今週から放送開始となった、記念すべきNHK朝ドラ100作目『なつぞら』は彼女がモデルとなっている。人手不足が深刻化するアニメ業界で、今よりももっと人員が少なかった時代に奥山氏が思い描いていた”アニメーターの夢”とは?
出典:週刊文春 1963年7月22日号
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わき目もふらずに粘土をこねて人形づくりに精を出す人。
ためつすがめつして背景を描いている人。
犬の表情が思い通りに描けなくて、顔をしかめている人。
80人近くの人々が、各々の机に向って、何やら描いたり、色を塗ったりしている。楽しそうな顔、困惑している顔、描いている動物と同じ表情をしている顔。
小学生の「図画工作の時間」を、そのまま大人に置きかえたと考えればまちがいない。
奥山玲子さんの涼し気な顔もこの中にある。
昭和10年生れ。7年前にできた東映動画スタジオに働く女性アニメーターの中では、いちばんのベテランである。
美校出、というよりは、好きで飛びこんで来た人が多いというこのスタジオの中でも、彼女のようなケースは、変り種に属する。
「みんなにおよそ似合わないっていわれるんですが、東北大学の教育学部にいたんです。父がスパルタ教育で、無理に入れらてしまって」
ところが、どうしてもがまんできずに中退して上京した。
そして、外国語大学に入るつもりで、受験までのあいだアルバイトに、新聞広告で募集していた東映動画スタジオの試験を受けてみたら、何なくパスしてしまった。
通っているうちに、技術はおぼえるし、面白くなりだして、受験もそっちのけで「居坐り」をきめこんでしまったのが5年前のこと。
「もともと絵をかくのは大好きだったけれど、まさかこうなるとは思わなかった」と、自分でもいささか意外だったらしい。
今や、動画とは「切っても切れぬ仲」である。
動画制作の出発点
一枚一枚、手で描いた絵を撮影して、一つの物語につくりあげようという長編漫画では、とにかく目ばたき一つ、手の動き一つにいたるまで、何枚かの紙を使って描きわけなければならない。
それも他の登場者たちと同じ比率の大きさで、同じ表情や性格をもって――。
それらは、すべて機械に頼るわけにはいかない、人間の手で経験とセンスに頼って描かれるのである。
奥山さんの仕事は、なかでも技術を要求される原画かき、の段階である。
登場する人間や動物を、台本のイメージから、一つのキャラクターにつくりあげ、それを原画として描く、動画制作の出発点になる重要な部分だ。
登場人物のイメージを、生きている人間で適役と思える人にあてはめればよいふつうの映画とちがって、漫画は一つの性格を創造しなければならない。
やさしい兎とか、意地悪なキツネ、などという条件を、現実の動物の持味に加えて一つの原型につくりあげるわけだ。
たとえば「江戸っ子で親分肌の犬」という条件をどんな絵に表現するか......