昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

発掘!文春アーカイブス

『なつぞら』のモデル・奥山玲子が語った「女性はアニメーターに向いている理由」

女性アニメーターのパイオニアが思い描いた”小さな願い”とは

 演出、原画に属する各人がもっているイメージを、一つの絵に定着させキャラクターをつくりあげることが、漫画制作の第1段階なのである。

「演出の方でつくるのと、私たち原画の方でつくるキャラクターが、よく一致しないでもめるんですが、自分でこんな風にしたらと思って提出したキャラクターを採用になるのが、いちばんうれしい」

 夏休みに公開される最新の作「わんぱく王子の大蛇退治」では、主人公スサノオノ命の兄、月読命のキャラクターが採用になったのが、最近自信のある作品だ、と彼女はいう。

目下キツネ課主任

 登場者たちのキャラクターが演出の人たちと合意の上でできあがると、いよいよ原画の段階に入る。

 たとえば、1匹の犬について、全身、前向き、後向き、手足の詳細、などいくつかの基本になるパターンをつくりあげる。

 この頃になると、14人いる原画のスタッフには、映画の配役と同じように担当が決められる。

 年末に封切る予定で目下制作中の長篇漫画映画「わんわん忠臣蔵」では、奥山さんの担当は「赤耳」という意地悪ギツネだ。

「同じ場面に出てくれば、もちろんほかの物も書きますけれど、それはあとで担当者に直してもらう。そのかわりキツネに関するかぎりは、全部私が責任を持つっていうわけです」

自分で描いた原画のなりゆきを点検する ©井上隆夫/文藝春秋

 一つの動作のもとになる原画をかくと、4人いる彼女のアシスタントが、その動作をもとにして、少しずつ移動させた動画を描く。

 更にその絵を透明なセルロイド板に写して、着色し、背景と合わせて、一コマずつ撮影するというのが、ざっとした漫画映画の制作課程なのだが。

 目下の仕事に関しては、彼女は「キツネ課主任」というところだ。

「悪役をやるのははじめてなんで、どうも勝手がわからなくて上野動物園までスケッチに行ったのに、気にいるキツネがいなくて、がっかりしました」

 電車の中で人間の顔を眺めていても、「あ、この顔は使えるナ」とキツネの表情に二重写しにしてしまう、と苦笑する奥山さんだ。

絵は体をあらわす

 彼女がもっとも得意なのは、女の子や、かわいらしい動物のキャラクターをつくることだ。

 14人いる原画のスタッフの中でも紅一点。

 好んで描く絵柄と同じように洋服の好み、雰囲気にも静かでファンタジックなものが感じられる。

「スポーツは全然だめ、文章を書いたり、絵を書いたりしているのが、いちばん好きです」という人柄だ。

 そういえば、この原画スタッフには、みな自分に似た絵を描く傾向があるという。

「太っている人が描くと、いくらやせさせたつもりでも、やっぱり太った絵を描くし、私なんかずいぶん太らせたつもりでもやはり細くしちゃうらしいんです。自分にそっくりの顔を描く人もいるし、コミカルな人はやっぱりそういう絵を描くのが得意。だから絵を見れば誰がかいたかわかるんですよ」と彼女はいかにもおかしそうだ。

 描くものによって得手、不得手はあっても、仕事の上で、女性というハンディキャップが一切ない。そういう意味ではまことに恵まれた職場だということができるだろう。

動物園へスケッチにでかけることもある ©井上隆夫/文藝春秋