「秒」が単位の仕事
1本の長編漫画を制作するのに、約10ヵ月かかる。
1年に2本の制作でもなかなか間にあわないほどの忙しさだ。
だから、奥山さんはキツネを描きだしたら、1年のうちのほとんどをキツネとのつきあいで過す、ということになる。
「わたしのキツネは、どこの場面にでも顔を出すので閉口しちゃうんです」といいながら、毎日、朝9時から、5時まで、白い紙に何枚も何枚も、キツネを描いている。
1秒間に24コマ映写機にかかる、そのために、彼女は最高5校の原画を描く。
動きが激しいものほど、原画の枚数をふやさなければならない。
「今持っている役は、大体2000枚描かなければならないんです」
カット割にしたコンテをもとにして、短いカットなら1日に2、3カット。長いカットは、2週間くらいかかることもあるという。
1本の長編漫画が約2300メートルの長さ。
そのうち、彼女が担当するのは、約500メートルにもなる勘定だ。
現代っ子の研究
一枚一枚の絵から、コマ撮りされ、一本の動画が完成すると奥山さんの仕事には一区切りがつく。
とはいえ、仕事が終ったわけではないのだ。
ふきかえで台詞のついた試写を見に行き、ロードショーの封切りを見に行き、最後に街はずれの映画館まで、彼女は仕事の反響を見に出掛けていく。
「ロードショーを見に来ている子供はお行儀がよくて、よくわからないんですよ。だから、場末の映画館へ行くのが、いちばん勉強になる」そうだ。
こちらが笑わせようと思って自信満々で描いたところが全然うけなかったり、思わぬところで大笑いしてくれたり。
大切な観客層”現代っ子”を研究することは、敵を知る、という意味で大いに必要だと思うと彼女は力説する。
「児童心理学が、ここでは役に立つんですよ。現代っ子について、みんなで討論しあうこともあるし......」
冒険、活劇、スリル、ドラマとあらゆる要素がなければ面白がらない”欲張り現代っ子”は奥山さんの研究成果あの手この手と見えざるかけひきを行うわけだ。
「子供に見て貰うためには、やはり勧進もとの母親を動員しなければならない。だから、大人には郷愁を、子供には夢をというのが、私たちが漫画映画を制作する場合のキャッチフレーズです」という宣伝課長の矢野さんの言葉は、そのまま彼女の仕事ぶりにも通じているようだ。