私は1988年に毎日新聞社に入社した。そのころはインターネットも普及しておらず、マスコミが「マスゴミ」などと呼ばれることもなく、新聞記者はまだ憧れの職業だった。バブルの真っ最中という時代の影響もあったのか同期生たちは皆明るく、自分たちの未来を信じていた。
「オレたちがこの古い新聞社体質を変えないと」
とはいえ入社式を終えて現場研修に突入し、海千山千の中堅やベテランの記者たちの中に放り込まれてみると、その考え方の古さやステレオタイプな物の見方に愕然とすることになる。
研修の夜の飲み会では、「オレたちがこの古い新聞社体質を変えないと」「われわれが中堅になるころには、この会社も絶対変わってるよ」と青くさくも熱っぽい議論を戦わせていた。私も「そうだよ、これから時代は変わってくんだよ」と本気で信じていたのだった。
ところが社会人になってから月日が経つと、人は変わる。もちろん成長もするのだけれど、同時に忘れていくものもある。新聞社に入社して10年が経ったころ、「10年研修」という行事があった。新聞社は全国組織なので、北海道から九州までの拠点に散らばって仕事をしているのだが、同期全員が久しぶりに東京に集合し、改めて研修を受けつつ30代中堅社員としての来し方行く末を振り返るというものだ。
10年ぶりの同期は「最近の新入社員は、ほんっとにダメだ!」
研修の夜、10年ぶりに会う同期たちと飲んだ。入社のころに仲良かったひとりが、酒で顔を朱くしながら突然グチをこぼしだした。
「最近の新入社員は、ほんっとにダメだ!」
地方支局で新人記者を指導監督する立場にいる彼は、毎日苦労しているのだという。「何がダメなんだよ?」と聞くと、彼はこう吐き捨てた。
「いまの新人はさあ、言われたことしかやらないんだよ」
いやいやいや。思わず私は彼に「じゃあお前は新入社員だったころ、言われてないことまでやってたか?」と言い返しそうになった(言うと喧嘩になりそうだったので、思いとどまった)。