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きちんと世界観を積み立てていくしかない

 自民党の古株議員が「日本の伝統的な家族観である専業主婦を……」などと口走るのもそうだ。専業主婦というあり方は戦後の高度経済成長時代に一時的に広がったものでしかなく、戦前の日本の庶民はたいてい共働きだった。自分自身が戦後に青春時代や社会人人生を送ってきたから、その時代の感覚が日本古来のものであり、伝統だと思いこんでしまっている。これも皮膚感覚である。

 こういうしょうもない言動は社会にいい影響を与えないし、会社という閉鎖的な空間で説教のような形で現れると、迷惑きわまりない。これに対抗し、皮膚感覚かそうでない論拠のある指導かを見極めるためには、自分自身がきちんと世界観を積み立てていくしかないと思う。日本の社会や産業、いまの空気感のようなものはいったいどうして現れて広まり、どこに向かおうとしているのか。世界観というのは、そういうパースペクティブな目線を自分の中に持つことだ。

 視点を養い、フラットな目線で私たち自身を見られる観察眼をつくっていくこと。そのためには自己啓発本ではない良書をたくさん読み、インターネットでもたくさん書かれている鋭く良い記事やブログを読み続ける。そして社内や仲間内の狭い空間に閉じこもって傷をなめ合うのではなく、自分の知らない世界を知っているさまざまな善い人たちと交流し、学んでいくことだ。空虚な精神論やスローガンや坂本龍馬とかの英傑物語に酔うのではなく、ロジカルにものを考える訓練をしていくことだ。

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そして説教くさいオジサンがひとり出来上がる

 これからの世界を懸命に考え、新しい知識や技術も積極的に取り入れていこうと目を輝かせ続ければ、「ベテラン」「中堅」と呼ばれるようになった先でも、世代を超えた会話ができるようになっていると思う。

 歴史観を見失ってしまうと、人は気がつけば年を取り、自分の皮膚感覚だけに頼るようになり、そして若い新人のやることが全部ダメに見えてくる。そして説教くさいオジサンがひとり出来上がる。今年入社する人たちは、今はまだ若くて未来を期待し、この古い社会を変えたいと思っているかもしれない。でもこの落とし穴は、誰の前にもひろがっている。今年の新入社員の中でも一定数の人は、気がついたら必ずそういう説教オジサンになってしまうのだ。

 私は長い間社会で生きてきて、そういう人をたくさん見てきた。そうならないように、自分が独善的になっていないかどうか、自分が自分の皮膚感覚だけで世界を見ていないか、つねに問い続けてほしいと思う。