「とにかく世界に出てみたかったんです」
「豚人」は、日本では京都の一乗寺店を皮切りに関西を中心に現在は9店舗展開していて、昨年、台湾にも進出している。
「豚人」のラーメンは中尾氏仕込み。中尾氏は、清湯(透明の澄んだスープ)からラーメンに開眼し、「ラーメンしかない」とラーメンの鬼と呼ばれた佐野実氏の弟子のもとで6年間修行を積んだ。
「豚人」は豚骨ラーメンを作る人、という意味だそうで、「清湯スープを極めた佐野さんからは世界一のスープをいただきました。そのことが、私に白湯スープ(豚骨)を極めたいと思わせてくれた」。中尾氏はそう言いながら、特に韓国に出店しようとは思っていなかったと話し、こう続けた。「とにかく世界に出てみたかったんです」。
韓国で人気の出るラーメンは作れるのか?
韓国の「豚人」を経営するのは、「フロアーチル」社で、同社の松本祐佳社長は、仕事で韓国と接点ができたのをきっかけに韓国に語学留学。その後、ビジネスを立ち上げようと動いていた時に人を介して中尾氏と知り合った。「豚人」はその仲介者との共同出資だ。ただ、話が持ちかけられた時は実はラーメン屋は気乗りがしなかったそうだ。松本社長の話。
「飲食店は初めてでしたし、韓国ではラーメンは人気がないと思っていましたから。それでも豚人のラーメンを食べに行きました。これはおいしい! そう思いましたが、それでも、『こんな脂っこくて塩っぱいのは韓国では合わない』と思い、韓国進出の話は断ったんです」
ところが、しばらくして、中尾氏から、「韓国の人も好きになるラーメンを開発した」と連絡が来たという。
「韓国に一度も行ったことがないと言っていたのに開発できるわけがない(笑)。そんなことは重々承知していたのですが(笑)、中尾さんなら成功するまでとことん一緒にやって行けそうだと思って、連絡をいただいた後すぐに一緒に韓国進出することを決めました」(同前)
“日本のラーメン”として韓国に受け入れられるために
そうして弘大店をオープンさせ、初日は、松本社長の知り合いなどをかき集めて100人ほどの客が入った。話だけ聞けば出足は上々に思えるが、問題はそこからだったと中尾氏が苦笑する。
「100人のうち6、7割ほどの人がラーメンを残して帰って行ったんです。あー、これはまずい、これではだめだと頭を抱えました」
予想通り、すぐに閑古鳥が鳴くような状況に。ともかく、ひたすら、スープ作りに没頭し、「脂っこく塩っぱいものが苦手な韓国の方々のために脂の量、塩分を日本の方にも満足していただけるぎりぎりまで抑えました」。ようやく今の味に落ち着いた2カ月後から客の入りは上向きとなり、行列ができるほどの繁盛店へと変貌した。
店の損益分岐点は120~130人だそうだが、現在は1日平均280~300人ほどが訪れていて、年の売り上げは製麺販売も含めておよそ50億ウォン弱(約5億円弱)あるという。