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自分好みで味を変えられるのが韓国流

 韓国と日本の味の決定的な違いについて中尾氏はこう話す。

「日本ではすでに味つけされているスープを食すことが普通ですが、韓国の方はスープにご自身で塩を入れながら味を調えるぐらいに塩分に敏感です。そういった意味でも、韓国の方からは、辛いものではない限り、スープに味としてのパンチは求められていないように思います。一方、日本は一口めに旨いと感じるパンチを求められているかと。塩分と旨味の融合は日本のほうが外食において求められていると思いますね」

「豚人」のメニュー。味を細かく選べる(著者提供)

 韓国というと、キムチのイメージが強く、辛くて塩っぱい味をイメージしがちだが、いわれてみれば、牛肉や骨を煮込んだソルロンタンやコムタンのような辛みのないスープものは店でも味つけはされていない。顧客が卓上に決まって置いてある塩やコショウなどで自分好みの味にして食べている。

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 中尾氏に大手のラーメン店が撤退したり、開店してもすぐに店を畳むラーメン屋も多い中、「豚人」が健闘しているワケを問うと、「韓国ではラーメンレストランは求められていないように思います。味が決め手ではなく、豚人が生き残れているのは“ラーメン屋”にこだわっているからかもしれません」。

「豚人」の人気が広まり始めると、「フロアーチル」社にはフランチャイズの問い合わせが殺到したという。「社員がとても大事な存在なので、どうしても直営にこだわってしまいます」と松本社長は話していた。

「すし」に負けないラーメン 食は人をつなぐ

 後日、韓国の若者に人気だという別のラーメン屋にも行ってみた。「日本のラーメンの味が忘れられなくて」日本のラーメン屋で修行したという韓国人の店主が切り盛りする店で、店の外観も日本のラーメン屋のよう。週末の昼過ぎだったが、ここにも行列が。店内に入ると、まるで日本の店のように元気よく、「オソオセヨー(いらっしゃいませ)」という声が飛んできた。店員のてきぱき感はやはり日本の店を彷彿とさせる。

日本で修業したという韓国人店主のラーメン。ニンニクが効いていた(著者提供)

 メニューは普通の豚骨と辛めのスープものの2種類で、麺も2種類、スープはその濃淡を3種類から選べるようになっていた。カウンターの隣の席には自転車のツーリングの途中で寄ったという会社員6人組が座った。知り合いに勧められてきたそうで、「日本にもよく遊びに行くんですよ。日本はとにかく食べ物がおいしいですね。ラーメンは日本の本格的な豚骨も好きです」(30代半ば男性、会社員)と話していた。

 ここのラーメンもおいしかった。ただ、好みもあるだろうが、韓国の人が好むニンニクがかなり利いていた。

 食は人をつなぐというけれど、韓国でのラーメンの広がりに「すし」にも負けないグローバルな広がりを感じるこの頃。これもひとえに、異国で奮闘する料理人や経営者あってこそだとしみじみ思いながら今日もソウルでラーメンを食べている。