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安寧を確保できる領域は、パーソナルな空間に

New York Timesは「景気後退後のセルフケアとは挑戦」だと呈している。現代人の1日は、フルタイムの仕事やSNS上の自己演出であっという間に終わってしまう。しずかに自分を見つめて慈しむ時間は貴重になったのだ。そのため、再生するだけで癒しの時間や自己受容テクニックを与えてくれる「ウェルビーイング」なコンテンツは需要がある。

 さらには、政治経済や情報が混乱し(*)、今までの“現実”や“真実”の概念が揺らぐ『マトリックス』時代、人々が安寧を確保できる領域は、自らがコントロールできるパーソナルな空間に限られつつあるのかもしれない。

『マトリックス』の一場面 ©Getty Images

*……「ナイスコア」の名づけ親であるIndieWire のデヴィッド・エールリッヒやVoxのコンスタンス・グラディなど、「ナイスコア」ムーブメントやTV界の「道徳回帰」傾向をトランプ政権に紐付ける識者もいる

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不確実性に揺れる世界への“正”と“負”の反応

「道徳回帰」トレンドの代表作とされる映画『パディントン2』では、疲弊した観客をやさしく癒すかのように、ちいさなクマがこんな教えを説いてくれる。「あなたが親切になれば、世界はやさしくなる」

『マトリックス』的世界におけるダークサイドにライトサイド……と書くとなんだか中二病ファンタジーのようだが、陰謀論的で壮大な「闇」カルチャーにせよ、道徳的でミクロな「光」の文化にせよ、共通しているのは「不確実性に揺れる不安な世界への反応である」という点かもしれない。政治変動にAIの侵蝕──世界はどこに向かうのだろうか。