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「加藤が間に合わない……」ナイナイたちの前で悔し泣き

 だから『27時間テレビ』の演出が僕に回ってきた時は、当たり前のように「加藤、マラソンやるぞ」って言ったんです。なぜなら、本家の『24時間テレビ』を象徴する企画だからこそパロディする。でも、日テレのようなプロフェッショナルなチームではなく、粗い感じで100キロ走ろうとしてるから対策が足りてない(笑)。当日はとんでもない猛暑日で加藤が熱中症になってしまって、このペースでは生放送終了までにゴールできないってことが早い段階で判明するんですよ。つまり、加藤本人も楽しみにしていたエンディングのケンカが実現しない。

熱中症による脱水症状で中々スピードが上がらない加藤。日曜21時までの生放送中に間に合わないことがお台場の片岡に告げられたのは驚くことにまだ昼過ぎのことだった ©フジテレビ

 じゃあ、加藤はいったい何のために走ってるのか……? 残酷すぎる現実に僕はショックで、それを他のメンバーになかなか説明できなかった。夕方になって、もうあとは岡村のボクシングしかないという時間に、『サザエさん』のVTRが始まってようやくメンバーと中居を集めて「実は、加藤が帰ってこられなくなった」と。僕はその時点でもう3~4日寝てないのもあったんだと思いますけど、恥ずかしながらみんなの前で悔し泣きしてしまいまして……。「みんなで目指していたけど、もうこの番組のゴールは極楽のケンカじゃなくなった、申し訳ない」と。

 じゃあ、どうするんだとなったときに、あくまでも極楽とんぼのケンカコントの「フリ」で良かったはずの岡村のボクシングが、「メイン」になる。本人は驚いたと思うし、辛かったと思いますよ。で、いきなり背負わされた岡村を、みんなが恥ずかしいくらいに「がんばれ!」と応援したんです。

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『27時間テレビ』を急遽背負わされて元世界王者の具志堅用高とボクシング対決をした岡村 ©フジテレビ
加藤の「フリ」ならばノックアウト負けも想定内だったが、「メイン」となった岡村は倒れても倒れても立ち上がった ©フジテレビ

 そのいきさつをわかっているから、中居までちょっと泣いてた。岡村はただボクシングをしていたわけではなくて、自分が『27時間テレビ』を成立させないと、っていう重責が突然ガン!っと肩に乗っかった状態で戦っていたんです。

 僕はサブのモニターで「ボコボコに殴られている岡村」と「もう間に合わないのに走っている加藤」を交互に見て……でも2人をそうさせてしまったのは自分ですからね……いやもう血の味しかしないです。全然楽しい思い出じゃない。

エンディングに間に合わないことを知りながらも、お台場を目指して走り続けた加藤。Tシャツのプリントは家族の写真 ©フジテレビ

『27時間』の生放送が終わって、4時間後とか? フラフラになりながら走り続けた加藤が夜中の1時くらいにお台場に帰って来たんですけど、本人も心残りだろうから『めちゃイケ』で後日放送するために、やっぱりケンカの収録だけはやっとこうと思って。それを放心状態の加藤に伝えに行ったら「飛鳥さん、ケンカってなんのことでしたっけ?」って(笑)。真っ直ぐな目で言うんです。それだけ限界を超えていた。でも熱中症のタレントを100キロ走らせて、真っ直ぐな目で「じゃあケンカコント行こう」って言うディレクターも限界超えてますよね(笑)。

「『めちゃイケ』は血の味」……インタビューを通して、そんなセリフが片岡の口から何度もこぼれた。22年の輝ける歴史、光が強ければ強いほどその影は暗くなる

 てれびのスキマさんは「どうすればあのような番組ができるのか?」って興味を持ってくれますけど、『めちゃイケ』ってそんな感じで、たとえ台本に書いてあったとしても、設定があっても、そうならないことがある。ならないときに、みんなとの共通言語や信頼関係があって、どう転ぶかわからないけど、やってみようというときが、一番テレビっぽいテレビになっていた。でも、たとえどんな結末になったとしても「加藤、お疲れさま」っていうみんなの本当の部分はきっと画面に映って伝わるというか……どんなにコントをやっていても、最後に残るホントが『めちゃイケ』の後味だったんだと思います……最後のケンカコントは結局どうしたのか? 30分休憩してからちゃんと撮りましたよ(笑)。

#9 「僕が岡村を休養まで追い詰めた…」『めちゃイケ』片岡飛鳥の自責と“打ち切りの危機” へ続く

#1 『めちゃイケ』片岡飛鳥の告白「山本圭壱との再会は最後の宿題だった」
#2 「岡村さん、『めちゃイケ』…終わります」 片岡飛鳥が“22年間の最後”を決意した日
#3 「早く紳助さん連れて来いよ!」 『ひょうきん族』で片岡飛鳥が怒鳴られ続けた新人時代 
#4 「飛鳥さん、起きてください!」 『いいとも』8000回の歴史で唯一“やらかした”ディレクターに
#5 「160cmもないでしょ?」『めちゃイケ』片岡飛鳥と“無名の”岡村隆史、27年前の出会いとは
#6 「ブスをビジネスにする――光浦靖子は発明をした」『めちゃイケ』片岡飛鳥の回想

#7 「『めちゃイケ』はヤラセでしょ」という批判 フジ片岡飛鳥はどう考えてきたか
#10 「最高33.2%、最低4.5%」『めちゃイケ』歴代視聴率のエグい振り幅――フジ片岡飛鳥の告白
#11 「さんまさんを人間国宝に!」ネット時代にテレビディレクター片岡飛鳥が見る“新たな光”とは?

※1 星野淳一郎…1960年生まれ。『夢で逢えたら』、『ダウンタウンのごっつええ感じ』などの演出を担当したフリーディレクター。2017年死去(享年57)。

聞き手・構成=てれびのスキマ(戸部田誠)
写真=文藝春秋(人物=松本輝一)