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人はなぜ絵を描くのか ある画家が答えた「自分でも予想できないものを生む」感覚

アートな土曜日

2019/04/13
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 人はなぜ絵なんて描くのか。

 ものを忠実にトレースするだけなら、スマホをかざして撮影すればすぐに、完璧な「写し」が得られるというのに……。あえて絵具と絵筆なんてアナログな道具を持ち出して、長い時間を費やして描くのはなにゆえか。画面にわけもなく惹き込まれ、時を忘れ見入ってしまう「観る側」も、いったい何をしているのやら。

 会場に身を置いていると、改めてそんなことを深く考えさせられてしまう。東京都江東区のギャラリーSatoko Oe Contemporaryでの長谷川繁「PAINTING」展だ。

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リズムやバランスを感じさせる色とかたち

 壁に掛けられた幾枚かの絵画は、実際に対面してみると思いのほか大きい。開口部が広いギャラリーの明るさも手伝って、絵の細部までがはっきり目に飛び込んでくる。

 

 心奪われるのは、画面に塗られている色の鮮やかさだ。次いで、かたちのおもしろさへと注意が移る。無数の球が数珠のように連なっていたり、ブリッジするかのごとく魚が反り返っていたり。三角形が並んでいるのは山嶺か、はたまた布なのか。それらの色とかたちが快いリズムや妙なるバランス感覚の存在を思わせる。

 観ていてとにかく無心になれるのだ。意味や価値など考えなくていいんだという、開放的な気分。そういえば空間に身を浸しているあいだは、そこに何が描かれているのか、絵の中の色やかたちが外界の見知ったものとどれほど似ているかどうかなんて、まったく気にしていなかったと気づく。