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はみ出すもののある絵だけが、おもしろい
「つくっているこちらとしてもただ夢中にやっているだけですし、描いていてひたすらおもしろいんです」
ただ、不思議に思う。学校の図工の授業時間を思い返してみても、私たちが絵を描くときには、バナナを写生しようとしてそっくりに描けたらうれしい。昔話に出てきた鬼の姿を想像通り紙に描けたとき、「うまくいった!」と素直に喜べる。長谷川さんが感じている「おもしろさ」は、私たちの描く歓びとは少々違うような気も……。 会場で長谷川繁さんご本人に話を聞けた。なるほど、描く愉しさを支えにこれらの作品は描かれているというのだ。
「そうですね、ものを写す歓びとはちょっと別のものかもしれない。自分の絵が、思いもよらなかったものを生み出したときこそ、いちばんおもしろいので。こんなものが自分の中から出てくるのか! と、描きながら自分で驚いてしまうような瞬間というが、まれにあるものなんです。
10代のころから絵を描いてきたので、ふつうにしていると自分が描ける範疇はわかってしまう。そこからはみ出したいという一心で進めていきます。何かの拍子にはみ出せたとき、絵の中で予想し得なかったことが起こる。そういうものだけが、人に見せるに足る絵になります。
日々描き続けていますが、なかなかうまくはいかないものですね。予想を飛び越えていく絵が生まれる確率は、野球のバッターがヒットやホームランを打つのと同じようなもの。3割あるかないかですよ」
会場で長谷川作品を観る人は幸せだ。そこには「ヒット作」ばかりが並んでいるのだから。絵の中から、得体の知れないはみ出すエネルギーを感じ取ってみたい。
写真=黑田菜月