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テロリストを抗日の英雄として讃えて

 19時19分、式が始まった。

派手な演出 ©文藝春秋

 結論から言えば、60分のうち40分近く、ミュージカルのような寸劇が行われた。太極旗や機関銃を手にした独立運動家に扮した役者たち(中には有名な俳優やアイドルもいた)が入れ替わり立ち替わり登場し、「大韓独立、万歳!」「死んでも死なない!」「勝った!」などと、日本統治時代をイメージさせるような場面で、とにかく歌って踊りまくる。

ひたすら続くミュージカル ©文藝春秋
©文藝春秋

 観客はキラキラと輝くLEDライトを振りまくる。やはりライブっぽさは否めない。『文藝春秋』5月号で、環境副大臣の城内実氏が「韓国の歴史認識はある種のファンタジーだ」と指摘しているが、イベントの参加者たちの姿を見ていると、「なるほど韓国人は“日本から独立を勝ち取った(ことにしている)歴史”をエンタメのコンテンツとして楽しんでいるのか」と妙に納得してしまう部分もある。

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盛り上がる客 ©文藝春秋

 イベントの中で、韓国では英雄とされる独立運動家たちの名前も写真と共に列挙された。金九、尹奉吉(ユンボンギル)、金元鳳(キムウォンボン)……。しかし、「大韓民国臨時政府の指導者たち」と呼ばれる人物たちは、当時の日本の立場からすれば単なるテロリストである。金九はテロリスト集団の親玉であり、李奉昌(イポンチャン)に昭和天皇暗殺を命じた桜田門事件の首謀者。尹奉吉は同様に金九に命じられて日本軍幹部暗殺を目論み民間人犠牲者を生んだ上海天長節爆弾事件の実行犯である。そして、彼らの活躍を紹介するための施設「国立大韓民国臨時政府記念館」が、かつて日本統治下時代に刑務所が置かれていた西大門で建設され、2021年に開館することも大々的に発表された。

イベントを主催した文在寅政権の「目論見」

 日本が渋沢栄一を新紙幣に使用することは批判し、自らはテロリストを国家的英雄として讃える。日本人としては、韓国のこうした“都合のいい”部分には違和感を抱かざるをえない。また、こうしたイベントの演出も「反日パフォーマンスなのか?」と思ってしまうが……。前出の黒田氏はこう解説する。

「こうした演出が反日的だと気になってしまうのはよく分かりますが(笑)、実はそこまで日本を意識したものではないんです。このイベントの最大の目的は『積弊清算』を掲げる文在寅政権による、韓国内の“保守派全否定”です。当然ながら、教科書などで教えられる大韓民国の建国記念日は1948年8月15日。李承晩大統領が建国を宣言した年です。しかし、左派・進歩派の文在寅政権は保守派政権である李承晩政権の功績でさえ“否定”したい。だから、あえて日本統治下だった1919年4月11日の臨時政府設立を盛大に祝い、祭り上げる。そうすることで保守派の殲滅を図ろう、という目論見なのです。それを日本から見ると、結果としての反日になっているわけなのですが。文在寅政権のこうした姿勢には、朝鮮日報をはじめ保守メディアも批判のトーンを強めています」

  確かに、イベントでは、1919年の臨時政府のメンバーでもある李承晩元大統領については不自然なほどに言及がなかった。