「卵子凍結はしない」と選択した理由
──ホルモン療法が続く間は妊娠できないそうですが、結婚・出産の時期と重なっている女性は悩む部分ですよね。
矢方 ホルモン療法を終えた1年後に生理が戻る人もいますが、なかには戻らない人もいるので、「相談したい時は、専門の医師と話すこともできます」と担当の先生から卵子凍結についてのパンフレットを見せてもらいました。でも卵子の保存って、お金がかかるんですよ。受精のタイミングでまたさらにお金がかかりますし、そういうのを考えると、卵子の保存をすることが、私にはかえってプレッシャーになるのかなと思い、卵子凍結はしないという選択をしました。
──子どもを持つ、持たないは夫婦によっていろいろな考え方もあります。
矢方 私はすごく子ども好きで、将来結婚したら子どもを持ちたいという夢もあります。でも、子どもを持たないという家族の形もありだと思うんですよね。
「なんで卵子凍結をしなかったのか」「子どものことを考えているのか」というような質問を受けることも多くありましたが、卵子の保存をしなくても、治療が終わったあとに自然妊娠された方もたくさんいますし、仮にもし妊娠できなかったとしても、いろいろな形で自分の子どもを持つことはできます。それは実際に巡り会ったパートナーと、その時に相談すればいいことですよね。「女だから妊娠して子どもを生まなきゃいけない」「妊娠できないのはかわいそう」というのは何か違うと思うんです。
──矢方さんが胸の再建手術をしないという選択をされた時も、同じように「かわいそう」だという声が多くあったそうですね。
矢方 「胸がないなんてかわいそう」と言われたりしました。でもそれって、人それぞれですよね。性転換の手術を受けてバストを作る男性もいますし、私はアニメが好きなので時々イベントでコスプレすることもあるんですけど、グッズを使えば、バストの大きいキャラクターにもなりきれますし(笑)。確かに今私には片方の胸がありませんが、それが私の人生のすべてではないので、そこだけに意識を向けて落ち込む必要はないと思っています。
──乳がんを公表してからしばらくは「病気の人」という見られ方をしたこともつらかったと、以前お聞きしました。
矢方 人によっては意識がすべて「病気の自分」にいって落ち込んでしまう人もいると思うんですが、私はずっと「病気」が自分の核ではないと思っているので。できなくなったことや失ったものも多かったですが、乳がんにはなったけれど、どうやったら楽しく過ごせるかということを意識して考えるようにしていました。そういう人もいるんだと知ってもらうことで、誰かの勇気や希望になれたらうれしいです。