文春オンライン

元SKE48矢方美紀が語る「『病気だから取りあげられているだけ』に泣いた日もありました」

矢方美紀インタビュー #2

2019/04/25
note

「私の価値は外見じゃなくて別のところにある」と思えた

──昨年は、治療を始めてから初の海外旅行にも行かれたそうですね。

矢方 去年の11月に、仕事と旅行を兼ねて、4泊5日で台湾に行ってきました。まだしばらくは、海外旅行は無理だろうと思っていたのですが、行ってみたら仕事も観光も楽しめたので、「がんになったからあれもこれもできない」というのは、やっぱり自分の気持ち次第なんだと思いました。ウィッグが金属探知機に反応して、搭乗ゲートで「外してください」と言われたらどうしようと不安に思ったりしたのですが、ウィッグってそもそも金属使っていないですよね。不安の先回りなんてするだけ損だなと思いました。

 

──ご友人の結婚式に参列される前も不安だったけど、行ってみたら大丈夫だったということも。

ADVERTISEMENT

矢方 はい。去年の6月に結婚式に参加した時も、最初は「途中で気分が悪くなったらどうしよう」「ウィッグってばれたらどうしよう」と不安でいっぱいでした。でも行ってみたらすごく楽しくて幸せになれた一日だったので、12月の2回目の結婚式参列は、最初から楽しむ気持ちだけで行ってきました。

 テレビの健康番組などでも、NK(ナチュラルキラー)細胞が活性化すると免疫力が高まるというのをよくやっていますが、NK細胞って笑うと活性化されるそうなんです。がんになって、免疫力の大切さをすごく実感した身としては、できるだけ毎日を笑って過ごせるよう、もっと意識していきたいと思っています。

──憧れる人や、こんな風になりたいという理想像はありますか?

矢方 アニメ「ワンパンマン」の主人公「サイタマ」に憧れるんですよね。サイタマは、3年間の過酷な修行の末にすべての頭髪が抜けたハゲ頭の男性で。ほとんどの敵をワンパンチで倒してしまう強さなのに、ヒーローはあくまで「趣味」なんです。抗がん剤の副作用で髪の毛が全部抜けた時にそのアニメに出会って、かっこいいなと思って。アニメと現実は違いますけど、髪がないとか胸がないとか、そんなことで悩むのは違うよなと思って。私の価値は外見じゃなくて別のところにあると思えるようになったのは、ある意味、乳がんのおかげかもしれません。

 がんになって「死ぬかもしれない」と怯えて暮らすこともできますが、私はそうではなくて、生きることの素晴らしさや支えてくれる人たちがたくさんいることに気づいたし、当たり前だと思っていた日常がどんなに素晴らしく大切なものか、日々幸せを感じながら生きていきたいと思います。

 

やかた・みき/1992年生まれ。名古屋・栄に誕生したアイドルグループ・SKE48のメンバーとしてデビュー。「チームS」のリーダーを務めた後、2017年2月に卒業。現在はZIP-FM 『SCK』のアシスタントのほか、テレビ番組やイベントでレポーターやナレーターとして活躍するほか、自身の経験をもとにした講演や番組出演など、幅広く活動している。

写真=末永裕樹/文藝春秋

きっと大丈夫。~私の乳がんダイアリー~

矢方 美紀

双葉社

2019年4月24日 発売

元SKE48矢方美紀が語る「『病気だから取りあげられているだけ』に泣いた日もありました」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー