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フレディ・マーキュリー、ダーウィン……発達障害の特性を生かした天才たち

新書『天才と発達障害』より転載

2019/04/22
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フレディ・マーキュリーが示す発達障害の特性

 じつはこのような天才たちの能力が、何らかの発達障害や精神疾患と結びついていることは珍しくない。過去には「天才とは狂気そのもの」とする学説も精神医学界には根強くあり、イタリアの精神科医ロンブローゾがその代表例としてあげられる。

 また、元東大医学部精神科教授であった内村祐之は著書の中で、ジャンヌ・ダルク、ニーチェ、夏目漱石を例にあげ、値打ちのある大事業を残した人であるならば、その人が狂気であろうとなかろうと、社会的に価値のある人というべきであると論じている。

 フレディ・マーキュリーに明らかな疾患は知られていないが、過剰な集中力や並外れた行動力、途方もない浪費癖は発達障害の特性を示唆している。彼に限らず、過去の天才的な芸術家や科学者においては、発達障害などが伴っているケースは稀ではない。それどころか、むしろ発達障害の特性が創造性を生み出したようにも思えることもある。

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チャールズ・ダーウィンの際立った社会性の欠如とこだわりの強さ

 たとえば、英国の科学者チャールズ・ダーウィンをみてみよう。彼が提唱した「進化論」は、自然科学の分野だけでなく哲学、宗教界にも激しいインパクトを与えたものだったが、ダーウィン自身の生活ぶりも独特なものであった。

 ダーウィンは少年時代から孤独を好み、鉱物や貝殻などの収集癖があった。ビーグル号での航海を終えた後、ダーウィンは若くしてロンドン郊外の邸宅に移り住み、生涯その家から外に出ようとしなかった。彼の日常生活には独自のルールがあり、そのパターンが乱されることを強く嫌悪した。この社会性の欠如とこだわりの強さは、ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性を示している。

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 ダーウィンとは対照的に、一つの場所にとどまっていることができない天才も存在した。彼らの魂は長く続く旅の中にあり、急き立てられるようにして街から街へとさまよい歩く。