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フレディ・マーキュリー、ダーウィン……発達障害の特性を生かした天才たち

新書『天才と発達障害』より転載

2019/04/22
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この世の秩序を一瞬のうちに変化させうる力をもった存在

 一方で、トップスターとして栄光の座をつかんだ後も、フレディの人生は一般的な幸福とはほど遠かった。精神的な安定を得られないまま、乱痴気騒ぎを繰り返した。

 そしてHIVに感染したフレディは、ライブエイドのコンサートを成功させたものの、その数年後、命を燃やし尽くすようにして45歳でこの世を去った。

 異能のトップスターとして君臨し、栄光の絶頂から一瞬のうちに消え去ったフレディ・マーキュリーの人生は、「トリックスター」のイメージとも重なる。

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 トリックスターとは元来は文化人類学や神話学の用語で、俗なる世界と聖なる彼方をつなぐとともに、この世の秩序を一瞬のうちに変化させうる力をもった存在のことである。トリックスターは道化を演じるとともに、現世の秩序を否定し、価値の逆転を引き起こす。

 トリックスターは自らが王として君臨するようにもなるが、急激な没落に至る運命にある。フレディに限らず、天才や傑出した人の生涯は、トリックスターを思わせる激しい軌跡をたどることが多い。

真の天才とは優等生ではなく、不穏分子だ

 しかし、真の天才はけっして別世界の住人ではない。彼らは私たちのごく近くにいて、普通に生活をしている。もちろん天才とは、単にテストの点数が高いとか知能指数が高いということとは別のものである。「○○町きっての天才」と呼ばれた優等生は、都会の学校に進学した途端、「one of them」になって埋没してしまう。

 真の天才とは優等生ではなく、不穏分子である。彼らは一般的な社会生活になじめずに、孤立しやすい。彼らの才能は、周囲になかなか理解されない。むしろ、一般の人からは、扱いにくい異物として目をそむけられやすい。天才たちの言動は常識からかけ離れていることが多く、常人の理解が及ばない危険なものに見える。

 それゆえ、天才は社会から意識的に排除されやすい。人々は能力のある個人を警戒し、意味なく嫉妬心を向けてしまうからである。