1ページ目から読む
3/3ページ目

 一方の弁護側は「ゼリー系への変更は窒息の危険があったからではなく、消化不良の解消のためだった。看護職員の被告は、介護職員の引き継ぎまで目を通す義務まではなかった」と訴えた。判決は結局、いずれも検察の主張を採用する。弁護側はこれを不服として、東京高裁に即日控訴した。

©iStock.com

無罪を求める署名は40万を超えた

 今回の裁判で、無罪を主張した弁護団の呼びかけに集まった署名は介護現場などから40万筆を超えたという。判決が出る前の最終弁論公判で、弁護側は今回の件が刑事事件化されたことで「介護の萎縮」という影響を生み、その状況は「介護を求める高齢者の利益に反する」と指摘した。また、山口被告の「看護師としての生き様と誇りを失わせ、打ちのめ」しているとも訴えた。

 地裁松本支部の野沢晃一裁判長はこうした主張に対し、一定の配慮を示した。判決で有罪と認定する一方で、「(「あずみの里」で)間食(おやつ)の配膳業務は主に介護士が担当しており、被告はその手伝いに入ったもので、配膳の際に介護士から注意も受けていなかった。配膳すべき間食の形態を容易に確認できる職場の体制となっておらず、全ての責任が被告にあるとも言い難い」として「非難の程度は必ずしも大きくない」と表現した。有罪判決はやむを得ないまでも、山口被告には同情できるとする内容だ。

ADVERTISEMENT

 食堂に集まった17人の高齢入所者におやつを配り、介助しながら全体に目を行き渡らせなければならなかった中で起きた今回の「事件」。果たして、山口被告を「有罪確定者」=「犯罪者」にしてしまっていいのか。亡くなった女性のご冥福を心より祈りつつも、社会全体で考えるべきテーマだと訴えたい。